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NIKKEI NET

社説2 出口見えぬ米国経済の調整期(8/2)

 米経済の試練になかなか出口が見えない。4―6月期の実質成長率は、大型減税によるテコ入れにもかかわらず、前期比年率1.9%と市場予測を下回った。企業がリストラを本格化するなか、雇用環境も厳しい。世界経済の先導役、米国の不振は日本にとっても重圧である。

 ブッシュ政権は緊急経済対策として、4月末から7月まで、国内総生産(GDP)の約0.8%に相当する1070億ドルの戻し減税を実施した。課税所得15万ドル未満の夫婦に、最大1200ドル(約13万円)を払い戻し、子持ち家庭には子供1人当たり300ドルを上乗せした。ちょっとした臨時収入に米国人がどう反応するか。注目されたが、4―6月期の個人消費は1.5%増にとどまった。

 住宅バブルが崩壊し、持ち家の価格は下がり続けている。勤め先企業の業績が悪化し、リストラも増えている。そしてクルマ社会の米国では、ガソリン代の値上がりがひときわ響いている。減税で戻ってきたお金は消費に向かわず、貯蓄やローンの返済に回った。

 バブル崩壊後の日本のように、既存の財政、金融政策の効き目がめっきり落ちている。財政事情も税収減と景気対策で悪化している。米政府によれば、今年10月からの2009会計年度の財政赤字は4820億ドルと史上最大になる見通しだ。インフレ圧力は強く、米連邦準備理事会(FRB)はこれ以上金利を下げるのが難しい。

 失業率と消費者物価上昇率をたした数字は「ミゼリー・インデックス(悲惨指数)」と呼ばれる。7月の失業率が5.7%に高まり、6月の消費者物価上昇率も5.0%だから、悲惨指数は2ケタだ。国民の不満も募っている。結果として貿易の保護主義が強まるようなら、日本を含めた世界にとって一大事だ。米当局には細心の政策運営を望みたい。

 金融不安を増幅していた住宅金融公社を支援する法案が成立したのは一歩前進である。とはいえ、不良債権の原因である住宅価格下落が止まるメドが立たないうちは、米経済の雰囲気が急に明るくなることはあるまい。住宅と金融の悪循環に焦点を当て、必要なら思い切って公的資金も使う政策運営が求められる。

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