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福田首相がようやく内閣改造に踏み切った。内閣支持率は低迷し、与党内に衆院の早期解散論や首相交代説までくすぶる中での人事である。首相としては、起死回生の思いを込めたものだろう。
新内閣は、町村官房長官ら主要閣僚を留任させる一方で、野田聖子氏を消費者行政担当相、若手で初入閣の林芳正氏を防衛相に起用するなど、手堅さと清新さに腐心した布陣になった。
なんといっても注目されるのは、「ポスト福田」の最右翼と目される麻生太郎氏を自民党の幹事長に起用したことだ。昨年の総裁選で首相に敗れたあと、政権入りの誘いを断って無役の立場から「次」をうかがってきた。
麻生氏取り込みの狙いははっきりしている。まず、きしみ始めた与党内の政権基盤を固め直す。さらに、人気が高いといわれる麻生氏に、選挙の「顔」として動き回ってもらう。首相が自らの手で解散・総選挙に打って出る態勢を固めることにもなる。
麻生氏にしても、総選挙で自民党が敗れれば政権が民主党に奪われ、「次」はない。ここは首相に全面協力して「ポスト福田」への可能性を残したほうが得策、との判断があったのではなかろうか。
■国民の不安に応えよ
その意味では、両者の利害が一致しての「福田・麻生政権」である。
この新体制には大きな意義がある。首相が政権を投げ出さない限り、来秋までに必ず行われる総選挙にこの陣容で臨むということだ。したがって、この新布陣の最大の仕事はそれに備えることであり、まさに「解散準備内閣」の呼称がふさわしい。
そこで、首相に改めて求めたい。
昨夏の参院選で民主党など野党が参院の主導権を握って以来、政治の「ねじれ」が続く。3年前の総選挙で圧勝した与党は衆院の多数を占め、ともに「民意に支持された」と主張して譲らない。政治状況を打開するには、一日も早く衆院を解散し、政権の正統性を民意に問わねばならない。
首相には気の毒な面がなかったわけではない。いきなり「ねじれ国会」に直面し、年金記録をめぐる社会保険庁の大失態など、前政権からの積み残し課題の処理に追われた。
そんななかで、何をやりたいのか、どんな政治をめざすのかを明快に示せなかったことが、内閣支持率を低迷させた大きな原因でもあった。
それがここへきてようやく、首相の訴えたかったテーマが形を見せ始めた。医師不足対策や子育て支援策を盛り込んだ「五つの安心プラン」や、消費者庁の創設などだ。国民の暮らしの安全、安心を守るという福田流「静かな革命」の青写真というわけだ。
秋の臨時国会で法案などを処理し、来年度予算案で具体的に肉付けしたうえで、最も有利な時を選んで総選挙に打って出る。首相はそう思い描いているに違いない。
だが、首相が置かれた立場は極めて厳しい。
「安心」と言うなら手はじめに、来年度から国庫負担が増える基礎年金の財源をどう確保するのか。膨らむばかりの政府の借金をどう整理し、返済していくのか。このまま社会保障の機械的な切り下げを続けていくのか。
こうした問題を放置し続ければ将来、とんでもない苦痛を強いられることにならないか、と国民は不安を深めているのだ。それに応えなければ、有権者の信頼は得られまい。
今回の改造で、消費増税に積極的な「財政再建派」の与謝野馨氏が経済財政担当相に起用された。社会保障などの財源問題に正面から取り組むつもりなら歓迎したい。
首相は消費増税について「2、3年の長い範囲で考える」と語ってきた。これでは単なる先送りである。年金や社会福祉などの財源をどのように工面していくか、しっかりした行程表を示してもらわねば困る。
福田新体制にはただちに対応を迫られる難題がある。臨時国会の召集時期をめぐる公明党との調整だ。
■有権者も選択の備えを
政府・自民党が今月下旬の召集を想定しているのに対し、公明党は9月下旬の召集と、早めの解散・総選挙を求めている。補給支援特措法の延長で再可決することにも慎重だ。麻生新幹事長の手腕が問われることになる。
その麻生氏の外交姿勢は、とくに対中国、対アジア政策の面で首相とはだいぶ落差がある。
首相が解散準備の態勢を整えたことで、民主党もいよいよ安閑としてはいられない。来月には代表選挙が迫っているというのに、小沢代表に対抗する有力候補者が名乗りを上げないのは寂しい限りだ。
代表選での論戦は、民主党が目指す新しい政治のあり方を有権者に示す格好の機会だ。国民にはどの程度の負担を求めるのか。主張する政策を裏付ける財源はどうなっているのか。説得力のある回答を示さねばならない。
再選が有力視される小沢氏は、代表選後にマニフェストの党内論議を本格化する構えだが、それでは遅すぎないか。総選挙に向けた準備を党全体として加速させるべきだ。
さて、有権者も近づく総選挙に向けて、選択の準備に入ろう。どんな政策、政権を望むのか。これからの永田町の論戦に目をこらしたい。