◎福田改造内閣 財政再建派シフトに懸念
福田改造内閣の顔ぶれをみると、いわゆる財政再建派へのシフトが鮮明であり、今後の
経済運営に懸念が残る。
自民党内では、成長と歳出改革で財政の立て直しを図る「上げ潮派」と消費税増税によ
る財政再建派の対立が根深いが、経済財政担当相に就く与謝野馨氏は財政再建派の代表格であり、自民党幹事長に起用された麻生太郎氏も、基礎年金の財源確保などのため消費税率の引き上げを持論にしている。旧大蔵省出身の伊吹文明氏の財務相登用、元財務相の谷垣禎一氏の起用を含め、消費税率の引き上げに前向きな閣僚が目につく。
福田首相は組閣後の会見で、消費税率アップにいま取り組む意思がないとしながらも、
財政再建に消費税増税が必要なことを指摘し、財政再建派の主張に理解を示した。首相は経済成長を図る必要性にも言及したが、財政再建派の閣僚を多く抱える中で、景気減速に有効な手を打てるのかどうか。成長実現の面で「上げ潮派」を中心にした改革路線が後退したように見えるのが気掛りである。
一方、麻生氏は昨年の総裁選で「政策減税等で日本の潜在力をいかす成長政策をとる」
と主張している。この点で成長重視派といえる麻生氏が党運営の前面に出てきたことで、福田政権の経済路線がどうなるのか、分かりにくい印象もつきまとう。地方経済の疲弊は深刻であり、福田首相は麻生氏と呼吸を合わせて経済運営を的確に行ってもらいたい。
今回の人事刷新の目玉である麻生氏の幹事長起用は、政権浮揚のための「最強カード」
を切ったとも言える。ただ、政策展開などで求められる「福田カラー」がかえってぼやけてしまう恐れも否めず、麻生氏の取り込みは「もろ刃の剣」の一面もある。
内閣改造は低支持率の政権のテコ入れを最大の狙いとする。しかし、単なる支持率狙い
の内閣改造なら本末転倒である。次の総選挙を見据えて「福田政治」がめざす国家ビジョンや政策を掲げ、成果を挙げることが肝要であり、支持率は後からついてくるものであることを銘記してほしい。
◎金沢の塩硝蔵復元 加賀藩秘史伝える拠点に
金沢市は、国の「歴史都市」に認定された場合、支援制度を活用し、同市土清水塩硝(
えんしょう)蔵の復元整備などを検討する考えを示した。藩政期、黒色火薬の材料となる塩硝の製造拠点であった南砺市五箇山と金沢を結ぶ「塩硝の道」に光が当たる中、その塩硝を使って火薬を製造する一大軍需工場だった塩硝蔵を復元することは、加賀藩の隠れた軍事史の全ぼうを全国に知らしめる象徴的な取り組みとなろう。
まずは同塩硝蔵の発掘調査を精力的に行い、施設の全容を明らかにすると同時に、塩硝
の道の歴史的価値を広く発信するなど、復元に向けた基礎固めを進めたい。
土清水塩硝蔵は、黒色火薬の生産では質、量ともに日本一と言われた加賀藩の軍事技術
の集積地であった。それゆえ現在では絵図などわずかな文献資料が残されているに過ぎないが、約八万平方メートルという広大な敷地の中には、役所や番所、調合所、乾燥場、土蔵などを完備していたとされる。
昨年秋の発掘調査では、土蔵の基礎や堀の跡が確認され、今年秋に行う追加調査では、
もう一つの土蔵の確認や堀の規模などのデータ収集を予定している。これまでも指摘したように、塩硝蔵の全容が明らかになれば、金沢城や惣構堀とは別の側面から加賀藩の底力を示す遺産となり、国史跡をめざす価値は十分にある。遺構をもとにした復元整備を視野に入れることも自然な流れであろう。
歴史都市に認定されれば、支援事業として、歴史的建造物の修理・買い取りなどに二分
の一、ソフト事業には三分の一の補助が見込まれるという。同支援事業の活用として検討される辰巳用水の開渠(かいきょ)化や西外惣構堀の復元などと合わせ、塩硝蔵の復元実現に向けて歩みを進めてほしい。
忘れてならないのは、塩硝の道でつながる加賀藩の火薬製造の起点である五箇山と、終
点である土清水塩硝蔵を一体的な歴史ゾーンに高めていくことだろう。塩硝蔵の復元に踏み出すのは先の話としても、金沢、南砺両市が二つを結ぶ事業をどんどん企画し、塩硝の道の輪郭を明確にしていきたい。