政府は、社会保障に関する緊急対策「五つの安心プラン」をまとめた。医療や雇用などへの国民の不安を一掃し、厚生労働行政の信頼回復も狙った。
通常国会の閉幕後、福田康夫首相が関係閣僚に指示し、高齢者政策、医療、子育て支援、雇用政策、厚労行政の信頼回復の五分野で、今後一年間で取り組むべき課題を中心に約百六十項目を盛り込んだ。
策定期間が約一カ月と短期間だっただけに、これまでの施策を寄せ集めた印象は否めない。これだけたくさんの政策課題を並べたところに福田首相の意欲をみることもできるだろう。
高齢者政策では、六十五歳以上の希望者全員の継続雇用が可能になる仕組みを導入し、高齢者を雇用する事業所への助成金や減税など検討する。定年後働き続けると減額される仕組みの在職老齢年金制度の見直しを挙げている。老後の生活保障として基礎年金の「最低保障額」導入も検討課題に掲げた。
医療では、医師不足対策として救急や産科医療、へき地派遣の勤務医に財政支援を打ち出した。大学医学部の定員増の具体的計画については、本年度中に結論を出すと明記した。
子育て支援では、幼稚園と保育園の機能を併せ持つ認定こども園の普及で待機児童解消を目指す。申請手続きを一本化することで厚労省と文部科学省の二重行政の弊害を解消、予算も一元化した「こども交付金」を創設するとした。
雇用行政では、住居がなくインターネットカフェで寝泊まりし生活するネットカフェ難民に対する就労資金貸与などの自立支援策を盛り込んだ。
厚労行政の信頼回復については、有識者らでつくる懇談会で人事や組織の問題点などを総点検し、その議論を行政の見直しに反映させていくとした。
それぞれの施策は、社会保障制度を充実・強化する内容で、プランを着実に実行していくことが大切だろう。各施策については工程表が示され、多くは二〇〇九年度予算の概算要求に反映させる方針という。
ただ、予算額や財源には触れていない。概算要求締め切りまでに詰めなければならない。来年度予算では、社会保障費の二千二百億円圧縮が決まっており、三千三百億円の重点枠(重要課題推進枠)での確保が必要になってくるだろう。
年金記録不備問題や後期高齢者医療制度をめぐって国民の不満は限界に達している。プランで成果が上がらなければ、福田政権の信頼も失われてしまいかねない。
定員割れを抱える四年制私立大学が増え続けている。日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、今春の入学者が定員を下回った私大は前年度を7・4ポイント上回る47・1%(二百六十六校)で過去最悪となった。大学経営を取り巻く環境は一段と厳しさを増してきた。
一九九八年度の8%から、この十年間で約六倍にも跳ね上がった。しかも、大都市や規模の大きい私大には学生が集まる一方で、地方や小規模な私大は苦戦を強いられる「二極化」が進んでいる。
定員割れが広がる背景には少子化に伴う十八歳人口の減少に加え、規制緩和による参入や学部の多様化で定員が増えていることなどが挙げられる。文部科学省は、定員割れの学校に対する経常費補助金の削減率を強め是正を促しているが、定員は増え続けて本年度は約四十四万八千人に上る。事業団は「多くは規模を縮小しないと将来、淘汰(とうた)される」と警鐘を鳴らす。
激しい大学間競争の中、地方の私大が生き残っていく上で鍵を握るのは大学と地域のきずなの強さだろう。時代の要請に応じた特色ある学部・学科の設置や、効率的な運営など大学の自己改革はもちろん、地域に開かれ貢献する大学として信頼を築いていくことが大切だ。
地元にも大学への強い思い入れが求められる。地方にある大学は学究の場だけでなく、学生たちが集い生活することで生じる経済効果をはじめ地域に活力をもたらす貴重な存在である。大学が消えることは地域の衰退を意味する。魅力あるまちづくりや就職の受け皿整備など有形無形の支援が欠かせない。
大学と地域が危機意識を共有し、生き残りへ向けて一体となって取り組みを強め、大学の存在感を高めてもらいたい。
(2008年8月1日掲載)