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青少年ネット規制法 有害情報から我が子を守れるか

 「有害情報から子供たちを守ります」―そんな法律ができたことをご存じだろうか。6月11日に参院で可決・成立した「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」、いわゆる「青少年ネット規制法」である。対象となる子供たちや、その親たちはもちろん、ネットに携わる企業にも影響を及ぼす同法とその成立の背景について、この問題に詳しいITジャーナリストの小寺信良氏に解説してもらった。

 ◇「トンデモ法」成立はまぬがれたが…
 年ごろのお子さんをお持ちのお父さん方は、日ごろから子供たちが何かというとケータイをいじくり回しているのを、なーんかよろしくないと思っていらっしゃるのではないだろうか。オマエらはいったい何をしとんのか、と。何か良からぬことをしとんのじゃないか、と。

 そうなのだ。子供たちがケータイの小さな画面で何事かしているのを、親が監督するのは難しい。そもそも親たちは、ケータイの何がそんなに面白いのか理解できない。それならいっそ、怪しげなサイトには問答無用で行けないようにしてしまえ―今回の法案は、そんな具合に決まっていった。

 しかし本当にそれでいいのだろうか。中学3年生の娘を持つ筆者でさえ、これは何かおかしいと思った。そして、いろいろ調べていくうちに実は大変に問題のある法案であることがわかった。なにしろ最初に法案が出てきた段階では、本来の目的を越えて国がインターネットやケータイの情報を検閲することになりかねない条項が盛り込まれていたのだ。

 IT業界もこの点に危機感を覚え、各社が団結して問題点を叩いていった。その結果、どうにか現実に即したものに丸めることができたのが今回成立した法案である。だが、今後も法規制がエスカレートすれば、IT産業が官製不況に陥る可能性もある。

 ◇ITオンチがつくる規制のバカバカしさ
 青少年ネット規制法が生まれた背景には、昨年12月の総務大臣要請がある。12月10日、増田寛也総務相は各携帯電話会社(キャリア)の社長を招いた懇談会で、新規加入の未成年者に対するフィルタリングサービスの原則実施を要請した。ここで言うフィルタリングとは、特定のサイトにしか接続できないようにする仕組みである。

 この大臣要請に対し、各キャリアはすぐさま言うことを聞いたが、ほどなくして弊害が現れた。未成年といっても、下は小学生から上は高校生まで幅広い。何が有害かは年齢によって違う。だが、各キャリアのフィルタリングは使用者の年齢におかまいなく、もっとも厳しい制限を課してしまった。中高生が友達と語り合うようなサイトも一網打尽だった。

 その結果、開けてびっくり、キャリアもサイトのサービス事業者も、このフィルタリングのために大変な収入減となってしまったのだ。皮肉なことに、この時、自民党のサイトもフィルタリングに引っかかり、閲覧できなかったらしい。

 政治家たちは、ケータイの情報規制が大臣要請で簡単に通ってしまったので、法律化も難しくないと考えたのかもしれない。しかも今の政局は、解散・総選挙が常に視野に入っている。ネット規制を推進することは、「私は青少年を有害情報から守りました」という錦の御旗にもなり、選挙戦では有利だ。

 しかし実際には、マイクロソフトやヤフーといったIT大手がこぞって反対声明を発表、民放連や民放労連、日本新聞協会も次々と懸念を表明した。手放しで規制に賛成するだろうと思われていたPTAでさえ、全国高等学校PTA連合会の会長が「保護者も子供も迷惑」と苦言を呈し、一部政治家の思惑は見事にはずれた。

 ネット規制推進派の政治家たちは「フィルタリングというすばらしい技術を使えば安心だし、手離れもいい」と信じている。しかし大手フィルタリング提供会社に取材したところ、開口一番、「フィルタリングは完全な技術ではないので、妄信しないでほしい」と言われた。どこの誰にも歓迎されない法律―それが青少年ネット規制法なのである。
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 ◇結局は自浄努力と教育しかない
 多くの人の目に触れる情報には、なんらかの制限がある。「違法」な情報は端からアウトだが、たとえば「有害」というあいまいなものに対して、新聞や放送などのメディアは自主規制で対応している。ネットの情報も同じだ。いきなり法律化するのではなく、まずは自主規制を含めた自浄努力を促す方向で進めるべきだった。

 一方で、子供たちに有害情報への対処の方法を教育することも大事だ。なぜなら、現在の規制は18歳になった途端に取り払われる。有害情報に何の免役もない状態でいきなりフィルターの外にほうり出されるのだ。そっちの方がよっぽど危険である。

 実際、教育を進める動きも始まっている。情報サービス大手のニフティは、東京都品川区の小学校で「情報モラル教育」の授業を開始した。任意団体「インターネット先進ユーザーの会」では、学校の授業で使える現実的な情報教育用の教材制作に着手、この夏にも「ベータ版」を無償公開する。

 青少年ネット規制法はいわゆる「トンデモ法」のひとつだが、それでもこの法律に意味があるとすれば、それはIT業界が一致団結して情報モラルの問題に取り組まなければならないという意識を生み出したことだろう。

 子供たちがケータイのコミュニケーションに夢中になるのは、それだけ今の学校生活があまりにも「生きづらい」からである。それを頭ごなしに禁止すれば、予想外の結果が噴き出すことは、もうみんなわかっているはずだ。

 ポケットの中にいつでも自分を励ましてくれる「誰か」の支えがあるから、なんとか明るく生きているという子供たちもいる。そんな子供たちの存在を正面から受け止めてこそ、「親の務め」が果たせるのではないだろうか。

投稿日: 2008年07月08日

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