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すだ・ほつえ 豊科町(現安曇野市)出身。百貨店勤務などの後、結婚して駒ケ根市に在住。子育て支援サークル「ファミリーサポート・ぐりとぐら」代表。 |
――地元駒ケ根市の昭和伊南総合病院が3月でお産を休止しました。どのように受け止めていますか。
「その件で昨年の今頃、年配の女性から『何とかならないのかしら』と電話を受けました。私は報道で知りながらも、ピンときていませんでした。お産を年500件も担ってきた大病院が急に取りやめるなんて。同様の動きが隣の下伊那地域で先行していたのに、半ば他人事(ひとごと)でした」
「事態を正確に知るため、病院長に出席をお願いし、勉強会を9月初めに開きました。赤ちゃん連れママも、年配の女性も、男性も真剣な顔つきでした。病院や行政からきちんとした説明がそれまでなかったから。参加者を中心に『安心して安全な出産ができる環境を考える会』を結成しました」
――会はどんな活動を展開していますか。
「勉強会を重ねる中で、これから子どもを産み育てようという女性、娘の出産に不安を抱く若いおばあちゃん、看護師たちと知り合いました。とりわけ地域で活躍する開業助産師の、妊婦に寄り添う仕事ぶりから、こんなお産もあるのかと知りました」
「上伊那で産婦人科と小児科がこの春に集約化され、出産の扱いは公立3病院のうち伊那中央病院に絞られました。その結果どんな影響が出ているのかを会で調査しています。例えば上伊那の南端、中川村から伊那中央病院までは車で1時間近くかかる。陣痛で駆け込む際に不安はないか、と気がかりです。こんな調査は本来、集約化を導入した側が実施するものではありませんか」
――医療過疎や集約化のしわ寄せは、住民側に回ってくるのでしょうか。
「そもそも医師不足を乗り切るのに、集約化しか方法がなかったのかと疑問です。国は医師抑制策を長年続けた末、やっと間違いを認め、政策転換しました。ならば、集約化だって間違っていない、と言い切れるでしょうか」
「会の調査結果が出たら、各病院や経営母体の自治体・広域連合に伝えます。集約化の問題点を改善するために役立ててもらいたい。まず何から手がけ、次に何をするのか、と優先順位をつけて欲しい」
――他にも学んだことが随分ありそうですね。
「会の出発点は地元のお産の危機でしたが、病院の経営が厳しいことも分かってきました。お産を再開できる条件が整っても、病院が傾いていたら元も子もありません。昭和伊南は産婦人科以外に、整形外科も形成外科も常勤医はいなくなり、不安です」
「医療や行政の担当者と意見交換する中で、住民としてなすべきことを学びました。まず身勝手な『コンビニ受診』を控える。軽症なのに平日昼間の受診を避けて夜間や休日の救急を受診すれば、医療側に余計な負担をかけます。それに、身近なかかりつけ医を持ちたいものです。診察を受けたら感謝の気持ちを伝えることも、医療者へのささやかな力づけになるでしょう」
――医療過疎がさらに進むと、地域はどうなるでしょうか。
「病院は役所や図書館と同様、住民に必要な基本的な機関です。機能が低下し、果ては閉鎖してしまえば、地域はさびれ、街が街ではなくなってしまう。しかもいったん失うと、容易に取り戻せません。街に病院がなくなれば、企業誘致やU・Iターンの魅力もなくなってしまいます。力を合わせて医療を守りたいのです」(聞き手・田中洋一)
立ち上がる母親たち 医療崩壊の危機に、地域の母親たちのグループが粘り強く取り組んでいる。とりわけ出産を巡る動きに敏感で、廃止されかけた上田市産院の存続を求めて署名集めをしたり、勉強会やシンポジウムで危機感を共有したり(松川町、須坂市、駒ケ根市など)している。上小地域のグループは今月、国立病院機構長野病院(上田市)の産科継続と常勤麻酔医の確保を厚労相にじかに要請した。