医療介護CBニュース -キャリアブレインが送る最新の医療・介護ニュース-

CBネット |  医療介護CBニュース

話題・特集


死因究明で議論錯綜―日本医学会(下)

 迷走を極めた日本医学会の「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」。会場を交えた討論では、学会代表の意見表明に始まり、医師法21条、医師の自浄作用、日本医師会の在り方、弁護士による刑事司法論など、あらゆる議論が噴出。司会の門田氏にはもはや意見をまとめようとする様子はみられず、マイクの前に続々と現れる参加者を順に発言の機会を与えていった。このうち、医療安全調の創設に関しては、「一歩でも進めてほしい」と早期の創設を求める意見と、時期尚早で「まだ議論が足りない」とする意見が交錯した。(熊田梨恵)

【関連記事】
死因究明で議論錯綜―日本医学会(上)
死因究明で議論錯綜―日本医学会(中)

議論百出の死因究明の公開討論会
死因究明制度でシンポ(5)ディスカッション
対象範囲で厚労相と異論―死因究明制度の法案大綱公表
医師法21条を「削除」―民主議員案
死因究明制度「内容に問題」―医療系学会


■早期の制度創設を

大分県の産婦人科開業医
 来月20日、「大野事件」は判決公判を迎える。我々の仲間が正当な業務の遂行中に、手錠をかけられて腰縄を打たれ、逮捕・拘留・起訴された、非常にショックな出来事だ。救急などほかの科の先生も同じ思いだろう。逮捕以来多くの抗議声明文を出して頂き、産婦人科医として心強く思った。
 しかし、現在も同じような事件が起こらないという保証は全くない。法律も制度も何も変わっていない。この議論があと何年続くのか。仲間は同じような危機にさらされ、明日逮捕されるかもしれない。それなりに素晴らしい夢と理想を持って働こうしている若い後輩に、こんな状況を引き継でいいのか。こういうことが起こらない制度を早く作ってほしい。細かい議論はあるだろうが、(制度は)5年で見直すというし、それぐらいの時間の余裕はある。大きな医学会や関連学会は、「基本的に賛成」と言い、「反対」ということころも「基本的には賛成」と言っている。
 今日の状況を惹起したのはわれわれ医療界が社会からの信頼を失ったことがベースにあるし、これを取り戻すには時間がかかる。しかし、当面の活動ができる環境整備はできるだけ早くしてほしい。国会は解散の政局がらみで、機能不全に陥っている状況で、法案を通すのは大変。当事者のわれわれ医師が中でごちゃごちゃ割れていては法案は通らない。産科婦人科学会員は、30歳未満の女性が73%いて、40歳未満でも女性が約50%。今後、周産期にかかわる医師の6−7割は女医になるだろう。ただでさえ医師不足の中、さらに頑張れと後輩に言えない。臨時国会にでも出し、できるだけ早くこの法案を通してほしい。一開業産婦人科医の希望だ。
石川県の産婦人科開業医 毎日の診療が氷の上を歩いているような形。いろんな意見があるのは分かるが、患者のためになるよう、一歩でも進めてほしい。

■院内事故調査による医療安全確立を

中澤堅次・済生会宇都宮病院院長
 一番の問題は医療安全。わたしたちは院内事故調査に重きを置きたい。院内調査は問題点もはっきりする一番よい方法で、必死にやれば患者にほとんどのことを分かってもらえるし、一対一で向き合える。第三次試案(による死因究明制度が)が(現場に)入ると、院内調査以外にもう一つのスタンダードが入る。医療の事故が起きた時、問題になるのは患者と病院・主治医の関係。スタンダードをどこに引くかが問題だが、申し訳ないが、医師会や学会にはスタンダードは引けない。医療側が必死に考え、ここにポイントがあるという学会の意見があればスタンダードになる。(医療安全調の委員は)どこで選ばれ、資格はあるのか。(業務の)委託もあるところにスタンダードを決められてしまうのか。医療安全に関してわたしたちができることはなくなる。
 患者が納得するもの(医療安全調)ができることには反対しないが、試案にはさまざまな欠陥がある。黙秘権を認めるとしても、「黙秘権があるから正直なこと言わなくていいので、調査に協力してくれ」と言ったら、院内調査は全く意味がなくなる。そのように構築される医療安全には全く意味がない。患者の信頼には絶対に結び付かない。先ほどの意見は理解できるが、このまま法案を通せばますます悪くなる。納得するまで議論をお願いしたい。

■慢性期の医師にダメージ

会場の医師
 30年ほど精神科医をしている。法案大綱案は、急性期や周産期などは緻密に議論しているが、慢性期や終末期、精神科医療にはとてつもないダメージになる。これまでに400人分ぐらいのかかりつけ医の意見書を書いているが、ほとんどが訴えのない腎不全や心不全など多臓器不全状態。そのような方が亡くなったら、ほとんどが原因不明だから(医療安全調に)届けるしかない。認知症の医療などは崩壊するだろう。
 大病院に送ろうと考えても、専門の先生に受けてもらえないので転院できない。そうすると、家族と相談して低レベルの医療をする。それは「標準的な医療から著しく逸脱した医療」で、家族は訳も分からずサインし、患者が亡くなる。これでは、一番にわたしが(警察に)連れていかれる。
 若い先生にこれ(死因究明制度)を残すのはとんでもない。家族が納得し「低レベルな医療をしていい」とならなければ、自宅でみとることはできなくなる。(医療安全調の)地方委員会から見たら、田舎の赤ひげ先生なんてとんでもない医療。慢性期の患者が溢れる社会になることを考えなければならない。

■ビジョンがない

会場の医師
 とてもいい討論だが発散しているだけで、まとまらない。この議論には、二つの視点が欠けている。一つはビジョン。この法案が通った後でどういう世界が見えるかというビジョンがバラバラなので、細かい問題や意見の相違が起こる。二つ目は、この議論は学会ベースで積み上がってきたが、本来はボトムのレベルの医師全員が参加できる団体で議論すべきということ。その上で、大きなビジョンをつくれば、法曹界などを入れるのかという議論ができる。今は混とんとしているが、喫緊にビジョンと議論のステージを決めていかなければいけない。
会場の医師 法成立後、これからの日本の医療がどうなるかということに尽きる。(医療の刑事)免責がない中で、警察機関的な組織ができれば委縮医療は避けられない。だが、刑法を変えるには非常に時間がかかる。しかし、それにチャンレンジしないということはあり得ない。だからまずは、国民の信頼を得るための医療安全を推進すべきで、これが王道。国民の信頼を勝ち得る中で医療免責という構図が完成するというビジョンをもとに、議論すべき。


【討論終了】


門田氏
 私がこれまで参加した医学会関係のシンポジウムで、これほど意見が錯綜(さくそう)し、活発になったものはなかった。医学会などが一つのことで立場を超えて意見交換することが過去にあっただろうか。医療界が問題を抱えていることは皆知っている。戦後60年間かかって医師会や医学会がここまで来たということを反省しなければならない。
 司会のわたしと山口氏は日本医学会の臨床部会で(この問題を)仕切り直し、分科会の枠を超えてディスカッションするという新たな動きの中でやってきた。発言したいことはいろいろあるだろうが一歩前に進まないといけない。医師が足りないと25年間言い続けた腰の重い厚労省もここまで来ている。ここで団結し、一体となって方向性を探る努力をしないといけない。問題がある中でどうしていくか。また(日本医学会)臨床部会運営委員会を開き、医学会として意見を集め、いいものをつくりたいと思っている。

                      ■     ■     ■

 日本医学会は7月31日、死因究明制度について検討している臨床部会を開き、討論会が終了したことを報告した。会合終了後、事務局はキャリアブレインに対し、「引き続きこの問題について検討はしていくが、よほどのことがなければあらためて見解を出すなどの動きはないと思う」と話した。門田氏は討論会の最後に、各学会の意見を聞いていく姿勢を示したものの、同学会が6月5日に出した、「加盟105学会に対して意見を聞いた結果、第三次試案の基本的な方向性について賛成であることで一致」とする見解は今後も変わらないとみられる。
 今回の討論会開催前には、日本医学会が「反対派」の学会を抑え込んで「総意として賛成」との結論を出そうとしていたとの噂も飛び交った。その噂に対し、議論を混乱させる目的で「乱入者」が送り込まれたとの見方もある。結局はガス抜きのような形で終わった今回の討論会だが、今年秋に予定されている臨時国会もあり、高久学会長が指摘する民主党案についての議論も残る。現場の医師たちの「医師たちがまとまった意見を出せないままでは何も変わらない」「氷を踏むような思いで診療している」との声に、医学界は今後、どのような答えを出していくのだろうか。


更新:2008/08/01 10:12   キャリアブレイン


このニュースをメールで送る

ご自身のお名前:


送信元メールアドレス(ご自身):


送信先メールアドレス(相手先):


すべての項目にご記入の上、送信ボタンをクリックしてください。

ログイン-会員登録がお済みの方はこちら-

キャリアブレイン会員になると?

転職支援サービス

専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート

スカウトシステム

医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能

医療介護ニュース

独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!

キャリアブレインの転職支援サービスが選ばれる理由

【第21回】洛和会音羽病院院長・松村理司(まつむら・ただし)さん 救急を断らない―。京都市の洛和会音羽病院は、ER型救急医療を実践する民間病院。年間5000件の救急車を受け入れている。一般病床428床に医療療養型、認知症病床、回復期リハ病棟を合わせて588床で、150人を超える医師を抱える。その総指 ...

記事全文を読む

医療法人社団斗南堂・八王子クリニック(東京都八王子市)ミディアム・テンション≠大事に仕事と家庭を両立 医師・看護師の厳しい労働実態が社会問題化し、医療現場の環境改善が重要な課題になっている中、「生活を大切にしながら働ける」医療機関が、東京都八王子市にある。医療法人社団斗南堂・八王子クリニックだ。 ...

記事全文を読む

夏の健康管理に気をつけて!

各地で「猛暑日」となる気温35度を記録するなど、今年の夏も暑い日が続いています。体調を崩さない為に夏の健康対策をどうすればいいか、医師に尋ねました。

>>医療番組はこちら


会社概要 |  プライバシーポリシー |  著作権について |  メルマガ登録・解除 |  スタッフ募集 |  広告に関するお問い合わせ