閉塞(へいそく)していた政治がやっと、動き出す。福田康夫首相は31日、懸案の内閣改造人事を1日に行う方針を固めた。安倍晋三前内閣の閣僚をほぼ引き継ぎ「背水の陣内閣」と命名し「ねじれ」国会下の厳しい政権運営を続けてきたが、発足から約10カ月で布陣の見直しを決意した。
首相が何を旗印に政権を運営したいのか、国民の目には必ずしもはっきり映ってこなかった。それが内閣支持率低迷の要因でもあった。私たちがこれまで主張してきたように早期に衆院解散・総選挙で民意を問うステップとしての内閣改造であれば、歓迎する。人事を通じ「何をするか」を国民にきちんと明示することが、首相に課せられた最低限の責任である。
北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)を終えて以来、首相は改造問題への態度を明確にせず「白紙」と強調してきた。ただ、その一方で首相を取り巻く環境は厳しさを増した。公明党は年末年始の衆院解散・総選挙に照準を定め、与党には福田内閣の支持率が低迷したまま選挙に突入することを危ぶむ見方も出ている。仮に今回、改造を見送れば首相自らが党の顔として選挙を戦う決意を疑われ、政権が一気に「死に体」となる可能性すらあった。自らが出した結論とはいえ、改造に踏み切る以外の選択肢は事実上、封じられていたのが実態だろう。
では、どんな陣を敷くべきか。肝心なポイントは、首相が次期衆院選で国民に示す政権戦略を固めたうえでの人選としているかだ。
消費税増税と経済成長優先をめぐる与謝野馨前官房長官と中川秀直元自民党幹事長に代表される自民党内の路線対立は厳しさを増している。公務員制度改革への政府・与党内の温度差、対北朝鮮政策をめぐる「対話と圧力」の兼ね合いなど、首相がどちらを向いているか、わかりにくい状況が続いている。政権の「死に体」化を免れたいだけの改造なら、やる意味がない。人事のカードを切ることで、逆に政権が求心力を失う可能性もある。
次期国会の早期召集の必要性も、改めて指摘したい。与党には公明党を中心に9月下旬への先送り論が依然として強い。
次期国会ではインド洋で海上自衛隊が補給活動するための新テロ対策特別措置法の延長や、首相が掲げる「生活重視」の看板政策である消費者庁設置法案などが審議される。民主党の攻勢を避けるための先送り論は理解に苦しむ。改造後になお「夏休み」を延々と続けては、政治の怠慢のそしりを免れまい。
首相が改造に踏み切れば小沢一郎代表の対立候補をめぐり足踏みする民主党の代表選びも新たな展開を迫られよう。一にも二にも重要なのは、首相が自らの手で政策を掲げ民意を問う決意を、国民にはっきりと伝えられるかである。
毎日新聞 2008年8月1日 東京朝刊