【第26回】 2008年08月01日
人手不足の介護現場に救世主か?
インドネシア人受け入れの「期待と不安」
しかし、今回の受け入れ開始を手放しに喜んでばかりもいられない。実際、関係者の間には、冒頭のような不安の声も多いのだ。
その1つは文化の違いだ。東南アジアで現地の人々に日本語を教えた経験がある日本語教師は、こう語る。「生活習慣の違う日本に慣れるだけでも大変。病院や施設で働くのに必要な語彙を半年でマスターできるかも疑問だ。現場で経験を積むといっても、相手は病人や介護を必要とする人なので、予想以上に大変なのでは」
同教師によると、インドネシアなどでは時間に対する感覚が日本とかなり違い「午後2時集合といっても4時か5時にやってくる」のは当たり前。また、敬虔なイスラム教徒が多いため、1日5回の「お祈り」の時間が必要だ。日中は水も食事もとらないラマダーン(断食月)があり、豚肉は食べないなど、食生活も日本人とは異なる。
さらに、インドネシアでは介護施設そのものがほとんど存在しない。場合によっては、言葉や文化の問題以上に、「介護や医療に対するイメージや常識」を変えることのほうが大変そうだ。
実務の対応はすべて各施設に丸投げされている上、施設側は日本語研修機関などへ100万円以上の費用を支払う規定になっている。こうした“ネック”があるため、たとえ人手不足であっても、候補者の受け入れを断った施設も少なくないという。
現場に一任される外国人の管理
人材供給や定着率に不安も
人材の供給や定着率に関わる不安も大きい。「インドネシア人はおおむね純朴で優しいと聞く。よい働き手になってくれると期待したいが、日本の高度な医療を学んでお金を貯めたら、3~4年でさっさと帰ってしまうのでは」(冒頭の施設職員)。
今回のEPAには、インドネシア側の看護師協会など一部の組織が反対しているとも言われ、それで応募者数が少なかったという情報もある。かつてフィリピンが米国に看護師を派遣し、国内の医療現場で空洞化が起きた前例があるからだ。今後も応募者が増えなければ、現場の人手不足はなくならない。
こうした不安をよそに、厚生労働省は「今回は協定に基づく特別な措置」としており、これを機に制度化していく見通しをまだ描けていない。
少子高齢化の一途を辿る日本にとって、今や介護・医療現場への外国人受け入れはまったなしの課題。近い将来、「下の世話」を外国人に頼らなければならない時代が来るだろう。コストをかけてインドネシア人を受け入れても、果たしてそれを存分に活用できるのか? 単なるお客様向けの「研修」で終わってしまっては、もともこもない。
(ジャーナリスト 中島 恵)
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