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死因究明で議論錯綜―日本医学会(中)

 医師法21条の在り方を問う議論を皮切りに、迷走を始めた日本医学会による「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」。医師の自浄作用を発揮しなければ国民の理解は得られないとする意見や、日本医師会の在り方を問う意見が出た上に、弁護士同士の刑事司法論までが繰り広げられた。(熊田梨恵)

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【医師の自浄作用の発揮を】

嘉山氏 厚労省が医師法21条の内容について、カルテの改ざんや隠ぺいなどの(悪質な内容に限り警察に届けると)規定すれば混乱しない。医療界は以前より自浄作用が働いているのだから、これだけ問題点が指摘されているもの(医療安全調査委員会)をつくるのはどうか。実行可能性の問題として、ただでさえ医師不足なのに、東京・大阪(など大都市)ならできるかもしれないが、地方は無理。日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業を使えばいい。このまま医療安全調の設立に突っ走れば、現場が混乱して医療崩壊が加速する。
森田茂穂・帝京大医学部麻酔科教授 医師法21条は明治時代からある。治安維持や変死体の報告に必要なものと解釈している。今の医師法21条は、医療界が勝手に拡大解釈してしまったのが始まり。医療界に一番欠けているのは、職能団体としての自律作用がないこと。そのため、患者や国民からの信頼を失った。先進国を見ても、米国のAMA、ドイツ、フランス、英国、カナダなど、政府から独立した機関で自律作用を持ち、(医師の)処分を実施している。そういった国民に信頼される医療者団体がないのが問題。
 医師法21条についても、警察は警察なりに治安維持の役割がある。そこに我々が一国民として協力してもよい。「警察だから全部嫌」ではなく、同じテーブルで議論するよいチャンス。皆がこの問題に関心を持つようになったのだから、将来どうあるべきかという目標達成のため、今何ができるかを考えるべきだ。法案を通したらいい・悪いではない。そんな法案ができても元の目標が間違っていれば、現在抱えている問題は解決しない。
 民主党はすでに意見を出しており、(法案大綱案との比較の)アンケートでは民主党案の方に賛成が多い。そこに(今回のシンポジウムは)何も触れていない。そういう意味で、国民的な論議になっていないのが問題だ。

■民主案の議論も残っている

高久氏 
その意見に賛成。将来的には医者の集団として、自律的な処分制度をつくっていく必要がある。日本医学会が日本医師会や病院団体などと協力してつくりたい。民主党案もこの(シンポジウムの)中で取り上げるべきという意見がずいぶんあったが、厚労省が今までやってきた法案大綱案について議論しようということになった。個人的にも議論した方がいいと思ったが、時間的制限や(議論の)ターゲットを絞ったので、民主党案のことはあえて議論しなかった。法案大綱案が法律になるときは国会にかけるが、その中で厚労省案と民主党案がどうなるか。近い将来の問題として当然残されている。国会議員の先生もそう考えていると思う。


【こういう現場に誰がした】

本田宏・埼玉県済生会栗橋病院副院長 若手代表として来たので質問したい。日本の医療界は今までまとまっておらず、医師数も医療費も世界最低レベルで、学会は臨床より論文。現場の医療者が事故を起こさないような環境にするために努力してきたのか。そういうことを一切放置し、すべて(医療安全調に)届けると言っていることが、空気が読めない「KY」だ。(医療安全調創設に)賛成している人は、若い人に今の急性期で働けと言うのか。若い人がいなくなり、日本の医療が崩壊したら救急医療を代わってやってくれるのか。
 われわれ若手は危ない中、少ない人数で歯を食いしばってやっている。わたしも午前中に手術をし、食事もせずにここにやってきた。若手に夢がない環境をつくったら、グローバルスタンダードの3つ目の過ちを犯す。一つは医師不足、二つ目に低医療費、三つ目は、世界に類がない、刑事罰に結び付く医療事故調査委員会だ。もういい加減にやめてほしい。若い人はとっくに嫌になっている。
山口徹・日本医学会臨床部会運営委員会作業部会長 今の論議に直接かかわる議論をしてほしい。
本田氏 この基本が抜けているから「KY」と言っている。これではお上がやっていることと同じ。全体的なことを決めてから、個々を決めないと現場は崩壊すると、現場は皆感じている。
門田氏 そういうことを議論する場ではない。


【日本医師会は郡市医師会を見ていない】

原晶・諫早医師会長 郡市医師会を代表してとは言わないが、木下勝之先生(日医常任理事)に聞きたい。日医は、この法案に(会員の)おおかた7割が賛成と言った。しかし、たった一回のアンケートが根拠で、それに答えたのは常任委員の一部だけ。郡市医師会まで話が来ていない。「開業医の代表の日医」とひとくくりにされるが、開業医の意見さえ一つも聞いていない。(諫早医師会は)日医、長崎県医師会、厚労省にもパブコメを何度も出した。出した揚げ句にいつも「賛成」したことにされてしまう。アンケートを取る気がないならば、わたしが郡市医師会に対し、地べたの医師会員として、問いたい。回答数がどれぐらいあるかは分からないが、日医が各県の常任理事にちょっと聞いて「7割賛成」と言うよりもしっかりした意見になる。各郡市医師会の先生方、諫早医師会からアンケートを回すので、よろしくお願いしたい。
木下氏 これは医師会の問題ではない。勤務医であれ開業医であれ、医療界にとっての問題。現状で医師法21条がある以上、このまま動く。少なくとも何か起こった場合、刑事訴追という不本意なことにならないようにという視点でやっている。医療費などの議論もあるが、これが喫緊の課題。意見がまとまらないならこの問題は続く。(それを避けるため)一歩進めるという視点できた。諫早医師会の先生のように抽象論ではなく、「具体的にここが心配」という質問をいただきたい。(そのような討論は)ここは場が違うからほかのところでお願いする。


■壇上に現場の勤務医がいない

西澤寛俊・全日本病院協会長 今回のシンポジウムには、医師会、医学会、病院団体など、限られた大きな団体しかいない。言っていいかどうか分からないが、このシンポジウムを受けた時に、どうも参加者が偏っていると思った。現場の管理者の医師、つまり勤務医の代表を入れてほしいと言ったが断られた。やはりそういう方々の議論が足りない。本田先生が言ったように、一番困っているのは現場の救急や急性期の勤務医。その声を一番大事にし、それを聞いて合意の上で作り上げるべき。あまり拙速にやると、よかれと思ってしたことでも、ますます医療崩壊が進んでとんでもないことになる。そこを考えてもう一回議論し直すべきだ。


【刑事司法の問題は】

会場の医師 業務上過失致死傷罪の改正が必要。業務上過失致死傷罪は死の可能性を予見できたという「予見可能性」と、論理的・事後的に死亡が回避可能だったという「回避可能性」という二つがあれば、犯罪として成立する。起訴されないというのは単に検察の情状。(可能性が)ゼロでなければ犯罪は成立しており、あとはすべて情状だ。なぜ起訴されるかと言っていたが、すべて検察に委ねられている。検察は法の番人で、法があると動かねばならない。法律がある限り、死の危険がある医療は常に犯罪と紙一重。誰でも「あの時ああすれば良かった」ということがあるが、それが犯罪ということで、単に情状で猶予されているだけだ。これで救急や外科医療をするのは無理。法の中に、「医療行為に関しては特に事実の当否に関して問題があるような業務過失に関しては免責される」という条文を入れる必要がある。死と隣り合わせの医療は、常に犯罪と紙一重だ。

鈴木利廣弁護士 今の意見は解釈が誤っている。「予見可能性」と「結果回避可能性」があれば犯罪になるというが、そんな法律はない。結果の「予見可能性」と「回避可能性」があり、その上で、法規範として「ねばならない」とういことがあって、初めて義務違反になる。その「ねばならない」とは、医学会がどういうスタンダードをつくるかということ。それが「標準逸脱」という考え方。標準逸脱の範囲がはっきりしないなら無罪で、起訴されない。標準的なものがあり、それをしなければいけないと医学会が言っており、命を守ることが可能なのにしなかっただけでなく、「しなければならない」のに「しない」というときに法規範が適用される。だから今の意見は刑事法の論理として間違っている。
 また、報告義務との関係で刑事免責と言うが、無罪とか起訴されないとかの問題ではなく、「報告されたことが有罪判決の資料に使われない」ということを刑事免責という。世界中が医療過誤について刑事免責しているかのような議論は間違っている。

■スタンダードあっても不当な逮捕ある

木ノ元直樹弁護士
 今の鈴木先生の意見で、根本的に医療者が解決できない問題は、スタンダードをいくらつくっても大野事件のような不当な逮捕・起訴があるという現実。そこをどうするかの答えが出ていないのに、法律がこうだといくら言ってもしょうがない。
鈴木氏 それは医療事故だけではなく、刑事司法全体の問題で、別の問題。刑事司法が誰から見ても公正にならない限りは、医療事故に対する刑事司法を運用してはならないというのと同じ論理だ。
木ノ元氏 大野事件の逮捕は、(逮捕した警察官に対する)特別公務員職権濫用罪が成立することが問題だ。
鈴木氏 わたしもあの逮捕はおかしいと言っていた。逮捕がおかしいのは医療過誤だけではない。
木ノ元氏 そういう議論があまりにも出てきていない。鈴木先生自身が言っていない。

門田氏 法律の話はちょっと置かせてください。


更新:2008/07/31 17:08   キャリアブレイン


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