社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:09年度シーリング 予算編成が衰弱している

 29日に決定された09年度予算の概算要求基準(シーリング)は、政策的な用途に使う一般歳出の上限が47兆8400億円で08年度より約6000億円増えた。公共事業費は3%減、防衛費や国立大学・私学費は1%減と前年度を踏襲した。

 ただ、社会保障の充実や成長力強化、低炭素社会構築など重点政策が対象の「重要課題推進枠」(3300億円)を設定したため、その財源手当てが必要となり、従来の削減率に2%を上乗せすることになった。

 歳出削減努力を最大限行いつつ、新たな政策に取り組むというのが政府のメッセージである。福田康夫首相は将来のための重要施策を思い切った重点配分で行うと自賛している。

 本当にそういえるのか。

 シーリングは要求官庁には厳しいように見える。しかし、要求にほぼ一律の削減率がかかるのだから、苦労することはあまりないはずだ。族議員や利害関係者の要望に沿うことができなくても、シーリングがあるからと説明すればいい。責任回避策にもなる。

 査定を行う財務省にとっても、要求段階で刈り込みがなされているのだから、予算編成作業は省力化できる。もちろん、予算総額を縛ることで歳出増要求を抑え込むことには役立つ。

 80年代に導入されてから、今でも生きているのはこうした理由からだろう。

 しかし、09年度の予算編成を見る限り、シーリングは本当に必要なのか疑問を抱かざるを得ない。

 第一に、3300億円の重要課題推進枠設定は、シーリングではメリハリが付けにくいことを認めたことに他ならない。

 経済財政諮問会議では予算改革の重要な課題として、新規要求を出す際には、既存の施策の廃止や削減を求める「ペイ・アズ・ユー・ゴー」原則を位置付けてきた。それによって、予算にメリハリを利かせるという。しかし、要求官庁の行動はそうではない。

 むしろ、要求上限を設定し、具体的な要求は省庁が責任を持って出す方がずっとわかりやすい。それを財務省が必要性や費用・効果分析などに基づき、厳しく査定すればいい。予算案決定の最終段階では政治判断も入ってくるだろう。

 こうすることで、シーリングで要求側、査定側ともに思考停止あるいは、思考低下に陥っている状況から脱することができる。予算編成が活性化することは間違いない。

 第二に、歳出の重点化といっても、シーリングがある限り前年度実績からの出発となる。これでは歳出の全面的な見直しや政策の棚卸しにはならない。例外を認める現状では、シーリングは財政健全化と矛盾しかねない。

 官庁の政策力を強めるためにも、衰弱している予算編成のあり方は、抜本的に変えることが望ましい。

毎日新聞 2008年7月31日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報