アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
多くの途上国を加えて世界貿易をいっそう拡大する。その野心的な試みは実現が遠のいた。史上最多の153カ国が参加した世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は、7年間の交渉の末の大枠合意を目前に、決裂した。
最近は資源ナショナリズムが台頭し、食糧高騰から食糧輸出を規制する不穏な動きも相次いでいる。合意への期待がしぼみ、各国が自国本位の貿易政策へ走ることを恐れる。
来年1月に米国大統領が交代するので交渉はしばらく凍結されるが、合意直前まで積み上げた成果を無にしてはならない。時間がかかっても各国は再開と合意に向け努力を続けてほしい。
「ラウンド」は第2次世界大戦の反省から始まった。戦前は米欧列強が、国益をむき出しに関税を引き上げてブロック経済化を進めた。そこで多くの国を集めて交渉し、関税などの貿易障壁を減らすことにした。貿易を拡大し相互依存を高めて成長を加速すれば、平和を保ちやすいと考えたからだ。過去4回の主要ラウンドは、自由貿易を進めるのに大いに役立った。
今回のラウンドは、米国が同時多発テロに襲われた01年に始まった。テロの温床となる貧困をなくし、貧しい国々にもグローバル化の恩恵が及ぶよう、新たな貿易ルールづくりをめざしてきた。決裂状態が長引けば、途上国が先進国向け輸出や途上国間貿易を増やす機会を逸してしまう。
150もの国が集まって利害を調整するのは難事業であり、もともと「最後のラウンド」ともいわれていた。農産物の特別緊急輸入制限の発動条件を巡り、中国・インドが米国と対立して決裂した今回のドラマは、米欧主導で交渉をまとめ切れなくなった「新しい時代」を象徴してもいる。
ラウンドでなくても、2国間の自由貿易協定(FTA)を進めればいいという意見もある。実際、日本も含め主要各国はこぞってFTAに力を入れている。だがそれでは、FTAから漏れるアフリカやアジアの最貧国は取り残されるばかりだ。
人口減少時代を迎え、内需の大きな伸びが期待できない日本も、失ったものは大きい。米欧や途上国が工業製品の関税を一段と下げれば、輸出を増やす機会がもっと広がったはずだ。
一方、決裂に胸をなで下ろしている日本の農業関係者は少なくないだろう。日本は関税率778%のコメをはじめ、100%超の高関税農産物125品目について、関税の大幅引き下げが求められていたからだ。
しかしいまこそ、ラウンド再開に備え農業改革に取り組むべき時だ。世界的な食糧高騰で内外価格差が縮小している。農業が脱皮して国際競争力をもつには、またとない好機なのだ。
公明党から連立パートナーの自民党に注文をつける大胆な発言が相次いでいる。連立維持への配慮からか、これまでは政策でぶつかってもどこか遠慮がちに見えたが、最近はすっかり様変わりのようである。
口火を切ったのは前代表の神崎武法氏だ。洞爺湖サミット直前の今月初め、講演でこう語った。
「福田さんの支持率が上がって、福田さんの手で解散になるのか。支持率が低迷して福田さんが代わって、次の総理で解散になるのか」
もって回った言い方だが、連立相手の自民党総裁、福田首相が退陣に追い込まれる可能性に触れた。
そしてサミット後。北側一雄幹事長が「内閣改造をしても支持率が高くなる保証はない」と発言し、幹部たちが口々に「早期解散」を唱え始めた。さらに、自民党が想定していた8月下旬の臨時国会召集に待ったをかけ、9月下旬への先送りを主張する。
内閣改造を軸に、総選挙の時期や首相交代などの思惑をはらんでうごめき始めた政局の主導権を、公明党が握っているようにさえ見える。
確かに、連立における公明党の存在感はぐっと増している。支持母体の創価学会が各地の自民党候補を応援するケースが多いからだ。総選挙が近づく今、公明党の言い分には自民党も真剣に耳を傾けざるを得ない。
だが、公明党のこうした動きが何を目指すものなのか、すっきりと説明されているとは言い難い。
例えば、早期解散論。創価学会が本部を置く東京都の都議選が来夏にある。これに全力投球するため、総選挙と時期を離したいという声が学会側にある。しかし、そんな事情だけから総選挙の日程を決めようというのであれば、理解に苦しむ人は多かろう。
福田内閣の支持率が低迷したままでは、総選挙でそのあおりを食いかねないという心配は分かるが、本家の自民党内でも首相退陣論が声高に出ているわけではない。そこをあえて踏み込んだ真意は何なのか。
半年前にはインド洋での給油活動をめぐる補給支援特措法の再可決に協力したのに、今回はその延長に慎重だ。姿勢を一転させたのはどうしてか。
かつて党の委員長までつとめた矢野絢也氏が「政治評論家としての活動を中止させられた」と創価学会を提訴し、国会での証言に応じる姿勢を見せている。公明党が長期の国会会期を嫌うのはそうした事態を避けたいからではないか、といった憶測も出ている。
公明党が自民党と連立を組んでもうすぐ9年。与党の一翼として日本の政治に重要な役割を担ってきた。だからこそ太田代表には、いま公明党が何を考え、何を目指そうとしているのかを明確に説明してもらいたい。