スーパーで買い物をしていて、懐かしいものを見つけました。「伊吹の煮干し」。フライパンでいためて食べると、おいしかった。特別な珍味ではありません。思い出があるのです。
二十年ほど前。最初の赴任地・高松に配属されて一年近くたった夏。「島を巡って企画を書け」と命じられました。地図や資料を片手に思いつくまま電話をかけ、大小の島をピックアップ。取材を始めましたが、もちろん失敗の連続。原稿は書けず、写真は撮り直し。デスクからは叱責(しっせき)の嵐でした。
伊吹島もその取材の一環で訪れました。観音寺市沖合の漁業の島。早朝から漁船に乗せてもらい、カタクチイワシという小魚の漁を取材。天日などで乾燥させ煮干しにしていく様子を教えてもらいました。
勧められるままにつまんでみた煮干しのうまかったこと。生乾きの煮干しも塩味がきいていて格別でした。どこか自信が無さそうな私を見かねたのでしょうか。漁師さんがドンと私を押して「うまいやろ。ええ記事書いてな」と日焼けした顔でガハハと笑いました。何だか勇気づけられました。「頑張ります」。答えた声はかすれていたと思います。もちろん塩味がきつすぎたせいではありません。
十本ほど連載した企画は、読み返すのも恥ずかしいような“作品”ですが、記者としてやっていく上で、ささやかな自信になったのも事実です。あれから大して成長したとも思えませんが、久々に「伊吹の煮干し」を食べて、ちょっぴり初心を思い返しました。
(玉野支社・高木一郎)