二〇〇九年度予算の大枠を示す概算要求基準(シーリング)が政府、与党の協議を経て閣議了解され、決定した。国の政策的経費である一般歳出の上限額(基準額)は四十七兆八千四百億円で、〇八年度当初予算より五千六百億円増える。
医師不足対策や地球温暖化防止といった重要課題に手厚く予算配分する目玉の重点枠(重要課題推進枠)は三千三百億円とし、〇八年度の五百億円から大幅に拡大した。
政策判断で増減できる裁量的経費のうち公共事業関係費は前年度比3%減を継続し、防衛、大学関係予算は1%減とする。その他は3%減。さらに裁量的経費全体を2%追加削減し、重点枠の財源をひねり出す。
政策的経費をその年の収入でどれだけ賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)が、内閣府の試算で一一年度に三兆九千億円程度赤字になりそうだ。黒字化するとの政府目標に黄信号がともった。
高齢化で八千七百億円の自然増が見込まれる社会保障費を例年通り二千二百億円圧縮し、六千五百億円に抑え込むなど、シーリングは歳出削減路線を一応は継続する形だ。だが、重点枠の大幅拡大などにより財政規律が緩むことが懸念される。
解散・総選挙をにらみ、与党内からは歳出増を求める声があがっている。原油高騰や食料価格上昇への対策予算を十分確保し、国民生活優先のメッセージを発して次期衆院選を乗り切ろうとの思惑である。財政再建重視の小泉改革路線そのものの転換を求める声も出ている。
福田康夫首相は、財政規律か歳出増か、はっきりした方針を示してこなかった。今後、概算要求を経て財務省が査定し、上限額以下に絞り込んでいくが、このままでは与党内の声に押され、ばらまき型の予算になりかねない。
国債、借入金、政府短期証券を合わせた国の債務は、〇七年度末時点で八百四十九兆円に達する。国民一人当たり六百六十五万円の借金だ。国の財政を健全化していくことは、政府にとって至上命題といえる。
〇九年度予算も財政の健全化につながるものでなければならず、首相はこの点をあらためてはっきり示した上で指導力を発揮すべきだ。
原油高などで困っている人など必要なところには手当てが求められる。前年度を下敷きにする従来の考えを改めて経費を徹底的に洗い直し、無駄を削って財源をねん出し、財政規律と実効性を両立したメリハリある予算としなければならない。
労働者派遣制度の在り方を議論する厚生労働省の研究会が、違法派遣など問題が多い日雇い派遣の原則禁止などを盛り込んだ報告書をまとめた。
規制緩和が続いていた派遣制度を規制強化に方針転換するものだ。厚労省は三十日に労働政策審議会の部会を開いて労働者派遣法改正に向けた具体的な議論を始め、秋の臨時国会に改正案を提出する方針である。
報告書は、日雇い派遣について「労働者保護という政策的観点から禁止を検討すべきだ」と明記した。禁止対象となる派遣の期間は、一日の契約だけでなく「三十日(以下)が考えられる」という。ただ、通訳など専門性の高い業務は日雇いでも労働者に不利にならないため「禁止の必要がない業務もある」と指摘した。例外となる業種をどう決めるかが課題となろう。
企業が派遣会社をつくってグループ内だけに派遣する「グループ企業派遣」では、グループ内への派遣割合を八割以下とするなど規制が必要とした。また意図的な偽装請負などがあった場合、派遣先企業が労働者を直接雇用するよう義務付ける制度導入などの検討を要請した。
派遣労働者は、労働者派遣法改正による規制緩和の流れを背景に急増した。企業は効率的な労働力確保として歓迎し、労働者も柔軟な働き方が選択できるメリットがあった。しかし、違法な二重派遣や派遣会社による給与の不当天引き、労災隠しなどの問題が続出、日雇い派遣大手のグッドウィルが廃業に追い込まれる事態にもなった。
派遣労働者保護の立場から、規制強化にカジを切らざるを得なくなったのは当然の流れだろう。ただ、規制強化は雇用市場の柔軟性を奪う恐れもある。広く非正規雇用の在り方を見直していく視点も必要となろう。
(2008年7月30日掲載)