税金などの還付名目に高齢者らを現金自動受払機(ATM)まで誘導し、携帯電話による操作の指示で現金をだまし取る「還付金詐欺」。その激増ぶりに、全国銀行協会(東京都千代田区)は22日、ATMでの携帯使用自粛を顧客に呼び掛けるよう、加盟190行と申し合わせるなど対応に乗り出した。しかし実効性には疑問符が付くうえ、ATM周辺で携帯を使えないようにするなどの抜本策は見通しが立っていない。
「医療費の還付手続きの書類を送ったが届いていますか」
5月下旬、東京都板橋区の無職女性(63)宅に一本の電話があった。「板橋社会保険事務局のアラキ」を名乗る男は「病院のATMだと手続きがすぐ終わり、その場で還付されます」と告げた。
女性はすぐ、かかりつけの病院にあるATMに向かった。携帯電話でアラキの指示を受けているうちに、逆に90万円を振り込んでしまった。「手続きに必要だから」などと言われ、口座の残高のけた数と上3けたの数字も言わされた。詐欺グループが残高を把握し、振り込ませる額を決めるためとみられる。
警察庁によると1〜5月の振り込め詐欺被害は約137億円で、過去最悪の04年の約284億円を上回る可能性がある。中でも還付金詐欺は計2817件で被害額は約29億8000万円と、昨年同期の4倍以上。携帯で指示しながら出張所やスーパーなどの無人ATMなどに誘導し「画面の左から2番目を押して」などと巧みにだまして振り込ませるケースが多いという。
警視庁は8月にも、専従捜査員約100人態勢で、被害が集中する午前10時〜午後3時に機動隊員らがATMに立ち寄って警戒を始める。
一方、銀行側の携帯使用自粛の呼び掛けは強制力がなく、増加傾向にある無人ATMでは不審な行動にも声掛けは難しいという。
金融機関の中にはコンサート会場などで使われる技術を応用し、ATMコーナーを妨害電波で「圏外」にする装置を導入する動きもあるが、ハードルは高い。1台約100万円の設置費に加え、設置許可を出す総務省も「ATMの周囲に少しでも妨害電波が漏れるならば許可できない」と慎重な姿勢だ。【鳴海崇、杉本修作】
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