JanJan 市民の市民による市民のためのメディア
北京五輪 WATCH

トップ > メディア > NHK番組改編事件「最高裁判決は表現の自由を保障しない」
メディア

NHK番組改編事件「最高裁判決は表現の自由を保障しない」

ひらのゆきこ2008/07/30
NHK番組改編訴訟で原告の訴えを全面的に退けた最高裁判決について、原告弁護団は新聞各紙は最高裁判決を評価しているが最高裁的基準では実質的に表現の自由を保障しないとの認識を示しました。
日本 テレビ NA_テーマ2

 7月25日夕、東京都港区愛宕山の自由人権協会で、NHK番組改編事件の最高裁判決について、原告弁護団による報告集会がありました。

NHK番組改編事件

 従軍慰安婦問題を扱ったNHKの番組で取材に協力したバウネットジャパンは、当初の説明と異なり、番組が改編されたことに対し、取材協力者の「期待権」が侵害されたとして、NHKらに対し損害賠償を求める訴訟を提起しました。

 1審ではドキュメント・ジャパン(以下、DJ。NHKの下請け会社)の責任を認める判決が出ました。高裁では審理の途中で番組制作者の内部告発によってNHK上層部が政治家の意向を忖度し番組を改編したとして、NHKに対しても損害賠償の支払いを命じました。

 取材協力者の「期待権」が法的に保護されるかが争われたこの訴訟で最高裁は、6月12日、NHKらに損害賠償の支払いを命じた東京高裁の判決を破棄し、原告の訴えを全面的に退ける判決を言い渡しました。

最高裁判決「3つの論点」

 報告会では、弁護団の中村秀一弁護士が、3つの論点について見解を述べました。1つ目は、高裁判決と最高裁判決の比較。2つ目は、2つの判決についての分析と切り口について。3つ目は、高裁と最高裁のどちらが表現の自由を保障する枠組みがあるのか。

 中村弁護士は、高裁と最高裁の判決を比較しながら、事実は同じでも法的枠組みや規範の違いによって結論が変わる、と述べ、2つの判決の分析の切り口については、取材する側と取材される側との二元論に矮小化し、政治家、報道上層部、現場、取材協力者の四元論を無視している、と批判しました。

 今回の最高裁の判決は、「特段の事情」と「格段の負担」という二重構造でメディアの救済論を立てており、地裁と高裁は「期待権」は「特段の事情」があれば保護されるとの判断を示したが、最高裁はそれを採用しなかった、と語りました。また、最高裁はこれまで「格段の負担」という言葉を用いたことがなかったことも指摘しました。

 編集権については、NHKの編集権を認めたが政治家とNHK上層部の違法性のある協議についてなにも判断しておらず、現場の編集権を無視していると批判しました。政治家の発言を忖度し、NHKが番組を改編したことを高裁はきちんとみているが、最高裁はネグっている、と断じました。

 どちらが表現の自由を保障しているのか。現場の立場でいえば、信頼関係が醸成されてこそ、上質の情報を得ることができるのであり、期待と信頼が保護されなければ現場は取材対象者と信頼関係を築けず、格段の負担が保護されなければ取材に応じなくてもよいことになる、としたうえで、最高裁的基準は実質表現の自由を保障しない、との認識を示しました。
 
 また、新聞各紙が社説などで最高裁判決を評価していることに対して、その誤りを指摘する必要性を訴えました


質疑応答

 質問 事実認定について。高裁の認定が最高裁で覆ったのか。

 答え 最高裁の事実認定は違和感がある。1月29日、試写を見たあと、野島は番組改編を指示した。そのあとに、25日のNHKの予算案が担当大臣に出されていることが書かれている。松尾と野島が29日に安倍と面会し、安倍が従軍慰安婦について持論を展開したあと、NHKに公正中立の立場で放送すべきだと指摘している。政治家の圧力によって番組を改編したという印象を弱めるために、あえて時系列を無視するような書き方をしたのではないか。

 質問 「期待権」というのは抽象的で具体性に欠ける。なぜ期待権にしたのか。負けるとわかっている。編集権についてもよくわからない。

 答え 本質的な質問だ。新聞社の編集委員からも同じような質問が出た。合意があったと構成したほうがよかったのではないかと言われた。

 質問 取材協力者は、まさに表現の自由を行使している人。

 答え 入口でバウネットジャパンと弁護団の論争があった。ドキュメントを放送するのであるから、契約に近い合意がある。女性法廷は表現行為。NHKと合意のうえ、1つの番組を一緒に制作する行為があった。違う番組を放送した行為に対する構成としたほうがよいと弁護団は主張した。

 質問 バウネット側はメディア側の表現の自由に手を突っ込みたくないと主張した。最高裁判決は、今後の表現の自由に対してきつい先例を残す。表現の自由を制約する行為になるのではないか。バウネット側の表現の自由が発している事実がある。NHKにもあるがバウネットにも表現の自由はある。

 答え 我々実務家は、バウネットを勝たせるために合意論でいくことを主張した。同じような方向を向いた共同制作者という認識だ。憲法学者の奥平さんが、同じ方向の共同表現者であり、契約に近い合意があったとしている。憲法論議から攻めると、バウネットジャパンを説得できたかもしれない。結論が変わったかもしれない。

 質問 DJとシンパシーをもって一緒につくっていこうとなった重要なポントとがあった。バウネットからみると、NHKでこういうふうにして表現していこうという主張がはじめからあった。

 答え バウネットがNHKから言われたのは、法廷での話を流してくれるということだった。NHKによって法廷そのものが国民に知らされていくことが重要であり、NHKに対する信頼もあった。

 バウネット DJは、NHKに説得されて乗った。もともとこちらからNHKに依頼したわけではない。

 質問 最高裁は「格段の負担」という文言をなぜ使ったのか。弁護団は判決を予想していたか。

 答え 「格段の負担」についてはわからない。表現の自由が優先され、取材協力者は保護されない。ハードルが高くなった。予想していなかった。最悪の結論。まさかDJの責任まで否定するとは思わなかった。

 格段の負担というのは、取材協力によってバウネット側に負担が生じないということではないか。しかし、そんなことはない。打ち合わせ、クルーへのサービスなど負担が生じる。最高裁の枠組みを使ってもバウネットを勝たせることができる。メディアは(表現の自由が認められたと)喜んでいる場合ではない。

 質問 ドキュメンタリーとは、女性法廷の事実をもとに日本の性奴隷について考える。そこに合意があった。合意に関する違反である。ドキュメンタリーは大きな枠組みの合意があって番組をつくる場合が多い。メディアの最高裁の判決に対する報道をみると、歓迎するという論調になっている。取材協力者の「期待権」を認めると調査報道がやれなくなるというが、ドキュメンタリーと調査報道とを混同している。

 答え ドキュメンタリー番組は取材協力者の協力抜きにはできない。女性法廷はこの世に1つしかない貴重なものだ。本件は特殊なケースであり、その点については高裁でも配慮しなかった。

 質問 政治介入について、判決は時系列に書いていないということだが、安倍が持論を展開したあと、番組改編の指示が出ている。因果関係は明らか。政治介入について高裁の位置づけは。

 答え 表現の自由。まさにそれが侵害された。

 質問 NHKは、政治介入はなかったと言っている。現実に起きていることと裁判はちがう。みんな口裏を合わせて嘘を言えば介入を持ち出しても勝てない。

 答え 間接的な証言が出たのはきわめてまれ。だから高裁は証人尋問をした。長井暁さん(編集部注:当時NHKチーフプロデューサー)を改めて採用した。松尾と野島も新たに調べ、事実関係を審理した。NHKは一審で認否しなかったが、高裁は踏み込んでいる。政治家の発言を重く受け止め、忖度した。意味のある判決だった。

 質問 だれも圧力をかけたと言わない。そのことを主張しても、最高裁で認められたか疑問。日本は口裏を合わせても許される。その議論は不毛ではないか。

 答え 松尾と野島は圧力を認めないが、内部告発によって嘘は認められていない。

 質問 政治家の圧力を法廷で議論するのは不毛か。NHKと政治家を赤裸々にさらしたことは画期的。高裁の忖度の事実認定は、最高裁でもひっくり返されていない。イラク訴訟は原告側が負けたが憲法違反で勝ち取った。裁判の経過は積極的意味があった。

 答え ここまで事実が明らかになること、普通はあり得ない。魚住昭さんも長井さんが内部告発したことに絶句していた。組織にいる人間が内部告発をすることは得でないからだ。長井さんはNHKをよくするために内部告発をした。奇跡が続いた。高裁は4人の尋問を認めた。奇跡が重なった。

 質問 高裁で白日のもとにさらされたが、最高裁では政治介入について触れていない。その最高裁判決を支持する社説を新聞各紙が書いたことで、メディアがお墨付きを与えてしまった。

 答え バウネットジャパン NHK側の書面提出の中に公平公正バランスという言葉がたくさん出ていた。放送法に政治的に公平にとなっている。安倍さんは自分で公平にと言っていた。英国のサッチャーが放送法に公平を入れようとしたらBBCや市民の反対で入れられなかった。権力のある人の公平は公正ではない。判決で公平と公正が一緒に使われている。

 公平ということは必ずしも公正ではない。法の再検討の必要性を考えさせられた。最高裁の判決は事業者に偏っているという点で最悪。現場の人たちの思想信条の自由を認めていない。事業者と現場の権利が対等にならなければ、市民の知る権利は実現できない。
◇ ◇ ◇

ご意見板

この記事についてのご意見をお送りください。
(書込みには会員IDとパスワードが必要です。)

[36042] バウネット=拉致実行犯の朝鮮総連
名前:新井秦基
日時:2008/07/30 22:24
そもそも、NHKの番組を朝鮮総連が事実上取り仕切るってのが、国民感情からしたら全く理解不能なんですが。


あと、朝日その他NHKの職員が言ってた「安倍が放映中止を求めていた」という当初の話がどこかにすっ飛んでいって、「国会議員が公平にと口にすることすらけしからん」とスライドしてますが、一体どうなってるんですか?
従軍慰安婦の強制連行の嘘がばれて「問題の本質を見誤るな」と開き直った朝日新聞のみならずサヨクの主張って、皆同じですよね。
南京の30万人が成り立たないと見るや「数の問題じゃない」とかも同じですけど。
最初に具体的な事実をバーンと提示しておいて、その後で突っ込まれると内容をスライド。
自分達はそれでいいのかもしれませんが、普通の人はおかしいと感じますよ。


それと、何かと反権力を口にする人がいますけど、日本は民主主義国家なので権力=国民の民意ですよ。サヨクのみなさんが大好きな北朝鮮や中国は一党独裁なので、国民の意思とは無関係な権力ですけど。
[返信する]
[36040] 最高裁が判断したのではない
名前:加藤隆
日時:2008/07/30 20:55
最高裁のどの判事が判断したのか、氏名を記事に載せるのは必須うだろう。
最高裁判事は、内閣総理大臣が決めるわけで、もともとこのような記事の情報を国民に広く伝えなければ、権力側の判事で占められ、権力側の判決しか出てこなくなる。
今回の記事はわかりにくかったが、この手の記事は重要である。なぜなら、国民には、最高裁判事を罷免する権利があり、その権利を行使するためには、どの判事を罷免すべきかの情報こそが必要だからだ。
今後とも、このような記事を期待する。
そしてそのときは、判事の名前付きで願う。

JJニュースで、判事ごとに情報をまとめることも提案される。
下手な判決をすれば、罷免されることが明確であれば、首相が選んだ判事でも、変な判決は出来ないはずだ。
[返信する]

ネットニュース JANJANおすすめコンテンツ

ページトップへ戻る
ネットニュース JanJan
インターネット新聞のJanJan ネットニュースJanJan 総選挙はザ・選挙で 政治資金データベース 最新映画情報の映画の森 今週の本棚(書評)
TVJAN インターネット新聞JANJANの動画・音声配信 イベント情報ならイベントステーション 商品回収など、不祥事データベース 投稿写真サイト JANフォト インターネット新聞JanJanのブログ 日本から発信する中国語市民ニュース

JanJanとはQ&A報奨制度スタッフ募集個人情報保護方針編集局へのメッセージ会社概要

JanJanに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。全ての内容は著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright © 2002-2008 JAN JAN. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.