レッド・パージ ( れっど・ぱーじ)
GHQによる反共路線の強制
〈イールズ講演と教員のパージ〉
東西冷戦が激化しつつあった昭和24年(1949)7月、GHQ民間情報教育局(CIE)顧問のイールズは、新潟大学での講演を皮切りに各地の大学で「共産主義教授追放」を説いてまわった。これに対するいわゆる反イールズ闘争が本格化したのは、翌年5月の東北大学、北海道大学での講演が自治会の抗議運動で中止になってからであった。全学連が反イールズ闘争方針を決定し、運動が広がる中で、政府はレッド パージ実施を決定したが、10月17日の全国大学ストを経て、文部省は大学教員のレッド パージは断念した。しかし高校や小 中学校教員のそれは強行された。すでに軍政部の圧力で調査を進めていた 大分県教育委員会 も、昭和24年10月15日、高校教師 波多野正憲 (のち 緒方町長 )ら9名に第1次辞職勧告を行い、ついで17日、小中学校教師5名に対し第2次辞職勧告を行った。これに対して、 大分県高等学校教職員組合 は「突然の辞職勧告は民主国家として誠に遺憾である」という声明を発表し、 大分県教職員組合 も CIE大分地区本部 (別府市)で米軍側と会談し資料提出要求を拒否したが、しかし両教組とも組織として有効な反対の行動をとることができなかった。日田 三重などで生徒自治会の首切り反対の動きがあり、辞職勧告を受けたうちの10名はこれを拒否して教壇に立ち続けた。県教委は10月25日、県下各学校長に対して、教師追放反対運動を行う生徒たちは処分することを通達し、翌26日に勧告拒否の10名を休職処分、辞表を提出した4名を依願退職とした。
〈朝連事件と県職パージ〉
同じ24年9月、政府は団体等規制令第2条該当として在日本朝鮮人連盟など4団体の解散を命じた。大分県当局は9月9日、 朝連大分県本部 を接収したが、このとき友誼団体の約100名がスクラムを組んで反対の意志を表明した。その中に 大分県職員組合 委員長 泰平国男 と同書記長 渡部睦夫 がいた。県はこれを以て両名に自発退職を迫り、15日に地方自治法附則5条により懲戒免職とし、さらに同副委員長 堀仁 以下の組合役員 活動家7名とその他2名に辞職勧告を行った。県職組県庁支部臨時大会は馘首は不当と決定したが、県職組内部の路線をめぐる対立もあって、事実上このレッド パージに対して、レッド パージ反対としての闘争を組むことはできなかった。それだけでなく、ことは 県職労 の泰平委員長らの除名、 自治労 の県職労除名へと展開して行ったが、それは 県全労 から 県労連 へという、全国的には総評結成に至るいわゆる 民同運動 の流れを背景とするものであった。
〈本格的レッド パージの発動〉
GHQは、 朝鮮戦争 勃発(ぼっぱつ)直前の昭和25年6月、共産党中央委員の追放、ついで機関紙『 アカハタ 』の停刊を指令した。ついで7月、GHQ民政局公職審査課長ネピアが新聞協会代表にレッド パージを勧告した。これによって同年8月5日までに、NHK119名、朝日新聞104名以下、全国の新聞 放送各社で704名が「共産党員とその支持者」としてパージされた。日本経営者団体連合会も、9月の臨時総会で「時局に対する経営者の基本態度」を声明した。こうして8月の電産、9月の映画、日通と続き、10月以降は全産業に波及し、パージされた総数は1万1,000名にのぼり、9月1日の公務員レッド パージの政府決定で、国鉄467名、電通省217名など、全部で1,200近くが解雇された。大分県下でもレッド パージの嵐は吹き荒れた。全国民間企業のトップをきって、8月26日に 九州配電 で6名、ついで10月20日の 日鉱佐賀関 の11名、同23日の大分交通18名、28日の 日新化学 14名、 三石耐火 の14名がパージされた。また官公庁関係では、11月6日に 大分電報局 の7名、同11日に 大分郵便局 の5名、13日に 国鉄自動車 日田で1名、15日に財務局竹田支部で1名にレッド パージが通告された。三石耐火煉瓦津久見工場がパージに反対して組合として約半月のストライキを組織したのを除けば、「合法政党の党員であることを理由に解雇するのは不当」としながらも、組織的な反対闘争は組めなかった。大分電報局では、退職勧告に対して3日間にわたる抗議行動が展開され、ついに警官隊が出動して強制排除を行い、45名もの検挙者を出したが、それは組合が組織した行動ではなく、 共産党大分県委員会 の応援によるものであった。こうして結局、県下のレッド パージの総数は、民間企業8社61名、官公庁関係13名であり、共産党員54名、組合役員 活動家23名、勧告を拒否したもの15名であった。彼らは組織による援護なしに、この超憲法的なパージに対して、個人として対処しなければならなかったのである。
[野田 秋生]
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