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【社説】

濁流死亡事故 市街地の川も恐ろしい

2008年7月30日

 楽しい夏休みが始まったのに、大雨による急な増水で川遊びの児童らが流され、死亡した。市街地の中の清流にも、思わぬ危険が潜む。悲しい事故を防ぐため、親や地域、行政も細心の注意を。

 事故の起きた神戸市灘区の都賀(とが)川は沿岸住民の長年の努力で、かつてのどぶ川がアユのさかのぼる清流に戻り、阪神大震災の時は生活用水としてくみ上げるほど。川遊びにも適当な場所である。それがあだになった。

 六甲山地に発する六甲川と杣谷(そまだに)川が合流して都賀川となる。合流点から大阪湾にそそぐまで約一・八キロと短く、川底の一部に自然石を使ったほかは護岸、河床とも三面コンクリート張りで、上流部や川沿いで豪雨、出水があれば、一瞬の間に水位は上がる。

 今回は十分間で水位が約一・三メートル上昇し、あっというまの悲劇だった。痛ましい限りである。

 神戸市は背後にすぐ山地が控えて、市内を流れる河川も短いものが多く、やや特殊な条件もある。しかし、同じ日に北陸地方でも強い雨が降り、金沢市中心部を流れる浅野川がはんらんし、床上浸水などの被害が出た。

 東海豪雨(二〇〇〇年九月)以来、首都圏など市街地の水害が重視されてきたのは周知の通りだ。温暖化との関係に確証はないが、時間雨量五〇ミリ以上の降雨が多発している。市街地を流れる川は二級以下の中小河川が多い。

 実は都賀川は百年に一度の洪水を想定、整備を進めたので、出水でも簡単に水はあふれないが、子どもらが流された。逆に都市の中小河川の多くは、三十年に一度程度の洪水しか考慮していない。三面コンクリート張りも多く、上流の出水や、路面舗装などで逃げ場のない雨水が、下水などを通じて流れ込めばすぐはんらんする。

 人命にかかわる悲劇を防ぎ、市街地の浸水被害を最小限に抑えるのには、まず都市を流れる河川の危険個所を徹底的に点検し、公開するのが第一だ。

 中小を含め洪水予報を出す指定河川が増えている。河川管理者と気象庁は協力、急に増水したり、広い被害が予想される都市部の河川を中心に、早めに予報を出し、避難を呼び掛けてほしい。神戸では間に合わなかったのは、大変残念である。

 市街地で大規模な河川改修は無理な場合が多い。せめて雨水の急な川への流入を防ぐ地中への浸透施設や、一時的な地下貯水池の建設も考えるべきではないか。

 

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