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【社説】

概算要求基準 すっかり空洞化した

2008年7月30日

 来年度政府予算の概算要求基準(シーリング)が決まった。本来なら、これが歳出の大枠になるはずだが、今回はそうなる保証はない。福田康夫政権は財政規律のあり方を根本から見直すべきだ。

 シーリングは焦点になった社会保障費について、「骨太の方針2006」が掲げた中期目標に沿って二千二百億円の削減幅を堅持した一方、医師不足対策など重要政策課題推進枠に三千三百億円を計上した。

 重要政策枠の財源は、公共事業や文教科学費などの裁量的経費の削減幅を従来より2%上乗せしてひねり出す方針だ。たとえば公共事業は前年度比5%削減になる。

 一見、緊縮型予算編成を貫く構えのように見えるが、実際の来年度予算が緊縮型になるかどうかは予断を許さない。というのは、09年度実施が決まっている基礎年金の国庫負担割合引き上げや高齢者医療制度の見直しなど、重要政策課題の扱いを軒並み先送りしてしまったからだ。

 国庫負担の三分の一から二分の一への引き上げで約二兆三千億円、高齢者医療制度見直しでも千四百億円の歳出増になると見込まれている。こうした歳出項目を来年度予算に盛り込めば、それだけでシーリングで決めた歳出総額は軽く突破してしまう。

 新たな歳出増加をどんな財源で手当てするのか、財務省は何も答えを出していない。半面、自民党の伊吹文明幹事長や津島雄二税制調査会長らは特別会計の積立金や余剰金、いわゆる「埋蔵金」の活用に言及している。

 もう一つ、当初予算だけを対象にしたシーリング制度の抜け穴もある。補正予算を使う手法だ。たとえば、高齢者医療見直しを本年度補正予算で手当てすれば、シーリングの縛りはかからない。実際、昨年はその手が使われた。

 今回のシーリングは、歳出の中身でも補正の取り扱いでも、金額が少し変わっただけで従来の仕組みをそのまま踏襲したにとどまった。重要政策課題に真正面から向き合ったとは、とてもいえない。

 シーリング手法の形骸(けいがい)化、空洞化が進む一方、めざとい政治家は近い将来の総選挙を視野に入れ、兆円単位の埋蔵金をあてにして、早くも予算分捕りに動いている。この調子では、来年度予算は景気対策に名を借りたばらまきに陥る可能性もある。

 福田康夫政権は財政規律をどう守るのか。これから年末までの予算編成で真価が問われる。

 

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