政府が「社会保障の機能強化のための緊急対策」を発表した。副題に「5つの安心プラン」とあるように、(1)高齢者の安心(2)医療の安心(3)子育ての安心(4)非正規従業員の安心――に、厚生労働行政の信頼回復を加えた計5分野について、2009年度の国の予算などで実現をめざす施策を150以上、列挙している。
社会保障制度への国民の信頼度はかつてないほどに下がった。それは政府・与党への不信に直結している。
昨年9月に安倍政権が退陣したのは、厚生年金などの記録漏れ問題を収束できなかった影響が大きい。ことし春以降に福田政権の支持率が急低下したのも、4月に始めた高齢者医療制度の不備が高齢層の不信感を増幅させたためだ。
その苦境から抜け出したいとの思いで福田康夫首相が6月に発案し、首相官邸(内閣官房)が厚労省など関係各省の尻をたたいてつくったのがこのプランである。残念ながら、国民や企業経営者に渦巻いている制度や政府への不信をぬぐい去るには力不足だ。理由は3つある。
第1に、列挙した項目のほとんどがすでに政府がまとめた方針や計画をなぞっている。社会保障国民会議の中間報告、安心と希望の医療確保ビジョン、ワークライフバランス憲章など、公表ずみの政府文書の内容がこのプランの柱建てに沿って整理されたともいえる。
第2に、財源がはっきりしない。官邸の担当者は「必要になる予算の総額はまったくわからない。各省が要求する過程で明らかになる」という。しかし、たとえばさらっと触れた「基礎年金の最低保障機能の強化」を実現するには、増税や制度の根本からの見直しが避けられないだろう。その道筋がわからないままでは、不信の解消はおぼつかない。
第3に、対策の目玉である厚労省の信頼回復の具体策づくりに、同省自らが深く関与しようとしている。有識者を招いて策を詰めるというが、そのなかには識者の名に値するかどうか疑問符を付けざるを得ない人が含まれていないか。議事を取り仕切るのも同省である。まな板の上のコイが包丁を握るの図ではないか。厚労省改革はやはり厚労省の外で推し進めるべし。それが筋である。