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社説:安心プラン 肝心なことは有言実行だ

 政府が社会保障分野で今後1~2年の間に緊急に取り組む対策をまとめた「五つの安心プラン」を発表した。国民の不信、不安を払しょくするために福田康夫首相が関係閣僚に指示したものだ。

 「安心プラン」の評価をひと言で言えば、網羅的・総花的で新味に乏しいということだ。

 高齢者政策、医療、子育て支援、非正規雇用対策、厚生労働省改革の5分野について、合わせて約150項目の政策がズラリと並んではいる。しかし、具体的な中身はこれから詰めるものも多く、全体の予算規模がいくらになるのかが分からない。多くは来年度予算の概算要求に盛り込むことを予定していた政策で、その一覧表を羅列しただけで国民が安心するかといえば、そうはならない。

 ただ、政策がよく見えないからと、「安心プラン」を一刀両断に切り捨ててしまうのは、もったいない。地域住民から悲鳴が上がっている医師不足対策など、すぐにでも取り組まなければならない課題も多く盛り込まれているからだ。

 医師不足への対応は最も緊急度が高い政策だ。地域では、公立病院の閉鎖や診療科の縮小が現実のものになっており、不安が広がっている。医師養成数の拡大▽勤務医の過重労働の改善▽へき地に派遣される医師の手当などへの財政支援▽臨床研修制度の見直しなど、プランに明記された対策の方向性については反対はないはずで、改革のスピードを早めてもらいたい。

 年金については「基礎年金の最低保障機能強化のあり方などの論点について検討」と書き込まれた。これは将来の課題と位置づけられているが、それでは遅いのではないか。消えた年金記録問題などで高まった年金制度への不信を解消するためには、老後の暮らしを支える年金の最低保障のあり方について、直ちに検討すべきだ。

 高齢者政策では65歳以降の人を雇用する企業への財政支援を新規に行う。日本の高齢者は欧米に比べて、働く意欲が高い。少子化によって減少する労働力人口をカバーすることや、高齢者の生きがいづくりという面からも必要な政策であり、確実に実行してほしい。子育て支援や非正規雇用対策も待ったなしで進める課題だ。政府には有言実行を求めたい。

 「安心プラン」で不思議なのは、厚労省改革が入っている点だ。有識者による懇談会で行政全般を総点検し信頼回復を図るという。第三者の目で見直す意味を否定はしないが、肝心なことは組織自らが本気になることだ。有識者の意見を聞いて改革をやってみました、というのでは話にならない。国民は、本気の改革を期待している。そうでなければ、安心しない。改革が必要なのは官僚であり、改革は官僚自身が行うしかないからだ。

毎日新聞 2008年7月30日 東京朝刊

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