八月五日は今年二度目の土用丑(うし)の日です。ウナギを見ると思い出す味があります。幼いころに味わった、島根県の中海で捕れた天然ウナギの蒲(かば)焼きです。
私の母方の実家が中海に面した小さな漁村にあり、夏休みにはよく泊まりがけで訪れました。ある日食べた蒲焼きは肉厚で、子どもの歯ではかみ切れないほど。脂はくどくはなくて、あっさり。今でもその時の味がはっきりと思い出せます。
そのウナギが産地偽装の問題で揺れました。今年は老舗の料亭や菓子店も問題を起こしました。「食の安全・安心」が、世間の危機感を呼び起こすのは今に始まったことではありません。病原性大腸菌O―157や環境ホルモン、輸入農作物の残留農薬の問題もありました。しかし、そのたびに、いつのまにか波は引いていきました。
十数年前のことですが、岡山県内地場スーパーの社長さんからこんな話を聞きました。「値段が高くても農薬の少ない、安全性の高い野菜を買うかどうか、お客にアンケートを取ったら、『買う』という回答がほとんどだった。そこで専用コーナーを設けて売り始めたら、さっぱり。みんな安い物を買った」
神門善久明治学院大経済学部教授は著書「日本の食と農―危機の本質」の中で、近年の食生活の乱れについて「消費者の利便性追及の欲求」「消費者エゴ」が背景にあると指摘しています。
今、国内の諸物価はじわじわと値上げを続けています。利便性を追求する消費者が今後どう動くのか。「食」の問題に一層悪い影響を与えないか、懸念しています。
(笠岡支社・河本春男)