柏市役所の窓を覆う「緑のカーテン」。体感温度を下げる効果があるという=千葉県柏市
ノーネクタイ、ノージャケット、代わりに冷房の設定は28度に――。地球温暖化を背景に始まった「クールビズ」運動も4年目の夏を迎えた。かつてキンキンに冷えていた空間は、「ぬるめ」が当たり前になりつつある。接客やレジャー、仕事場での変化を探った。
老舗(しにせ)百貨店、日本橋三越本店。7月7日から1カ月間、1階化粧品や食品売り場などを除き、以前は25度程度だった設定を2度上げている。2年前に3日間限定で試したのが最初で、当時は「なまぬるいと他店にお客が流れないかと不安はありました」と三越の環境担当者。理解を求めるために「クールビズ体感調査実施中」と看板をたて、温暖化で絶滅が叫ばれる動物の写真展もやった。
幸い、今までに苦情らしい苦情はなく、「他業界に広がる一歩を踏み出せた」と担当者は胸をはる。日本百貨店協会の加盟各社も今年からは本格的に取り組んでいる。
映画会社の松竹は公開中の「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」で185館を対象に館内温度を通常の25〜26度から2度上げている。「妖怪がすめる自然を守ろうという(原作者の)水木しげる先生のメッセージにもあう」と同社映画宣伝部。PRにつながる利点も見込んだ実施というが、今後の広がりの起点となるか。
主にオフィス空間から始まったクールビズは、不特定多数が利用する場へ浸透しつつある。羽田空港のロビーでも今年6月から空調を従来の25度から1〜2度上げた。期間中最大1500トンの二酸化炭素(CO2)削減を見込む。
軽装も定着しつつある。
三菱東京UFJ銀行は6〜9月をクールビズ期間に設定。以前からあるカジュアルフライデーの服装規定を適用する。「銀行は堅苦しいと思われがちですが、そうでもない」と広報担当者。ジーパンやポロシャツは禁止だが、チノパンはOKという。スーツの上着を会社に置いたままにして必要なときに羽織るなど、営業マンらは使い分けを工夫しているという。
服装に悩む企業もある。派遣会社のキャリアライズ(本社・東京)はこの季節、「服装が崩れがちになるので気を付けて」と派遣社員に手紙を送る。大半が女性で、男性に比べるとクールビズの定型がない。営業担当の女性は「派遣先の男性社員から『目のやり場に困る』と言われることもある」と話す。キャミソールやタンクトップ、腰の浅いパンツなど肌の露出を避けるように伝えている。
旗振り役の環境省は「ライフスタイルを変えるという代名詞的存在になった」と自負する。昨夏の調査で「クールビズ」という言葉の認知度は96%に達した。運動開始以降に冷房温度を上げた事業所は48%に上り、推計約140万トンのCO2削減につながったという。300万世帯が排出する1カ月分相当という。
だが、28度設定のオフィスは、軽装でも仕事の生産性が低下するとの研究もある。コールセンターで電話交換手の応答回数を測る調査で、設定温度を25度から1度上げると作業効率がおよそ2%下がった。7月の日本建築学会のシンポジウムで発表され、省エネだけでなく、生産性を下げない室内環境が必要だと指摘された。
千葉県柏市は05年から庁舎内の冷房設定を一部で29度に上げた。自治体ではクールビズ以前から省エネ努力を続けてきて、削る余地が少ない。「乾いたぞうきんを絞るようです」と市環境保全課。今年は庁舎1階の窓にネットをはり、植物をはわせる「緑のカーテン」に取り組んだ。あの手この手の努力が続く。(井上恵一朗)