先日の話の続き。ある新しいバンドのために、新しい曲を書いてほしい、と頼まれた件。

ここからは、そのバンドのメンバーへ、私信、というか、公開書簡、というか。

ずっと考えているのですけれども、ね。そう言えば、いままで作ってレコーディングしたものの、人前では一度も歌われたことのない曲、演奏されたことのない曲、というのも、あるのですが、どうでしょうね。いくつか挙げておきます。

夏木マリさんの「戦争は終わった」というアルバムのために作った「戀」、という歌。これは、CDには入れずに、同時発売のアナログ盤だけに収録したので、聴いたことがある人も少ないかもしれないですが。冬の始めの季節の歌。

やはり夏木マリさんのアルバムのために書いた「動物園にて」という歌。美川憲一の「おんなの朝」をちょっと意識して書いた歌。美川憲一と、シェイラ・ジョーダンと、ポール・サイモン。

ピチカート・ファイヴに書いた「美しい星」という歌。オリジナル・ラヴの田島貴男さんが、一時期ステージで取り上げてくれていたのですが、自分たちでは、人前で歌ったことがない、そういうレパートリー。そう、「ピチカート・ファイヴ・アイ・ラヴ・ユー」という編集盤に入れた曲はそんな作品ばかりでした。あのアルバム、最初に考えたタイトルは「はじめに言葉ありき」というものだったのです。

ピチカート・ファイヴの初期のレパートリー、というのも、いくつか思い出しました。「神の御業」とか、「眠そうな二人」とか、「そして今でも」とか、「連載小説」とか。ああ、ムズカシイ曲ばっかりだ。

井上睦都実さん、という歌手のアルバムのために書いた「屋根の上で」という歌。これ、ゲリー・ゴフィンとキャロル・キングの「アップ・オン・ザ・ルーフ」そのまんまなんですけどね。ちょっと浅田美代子の「赤い風船」を連想させる曲。ギターとベースだけで歌うといいかもしれない。この歌の元のアイデアはピチカート・ファイヴの「サンキュー」という曲と同じで、纏まらなかったものを2曲に分けて書いたら、すっきりしたのです。

その「サンキュー」をクリスマスのライヴのためにアダプトしたのが「きよしこの夜」という歌。これもピアノとベースだけで歌うには向いているかもしれないです。

吉岡忍さんのために書いた「素晴らしいアイデア」という歌。いや、これは彼女にしか歌えない歌かもしれない。

ああ、こうして書いていたら、自分の曲ではないけれど、ぜひカヴァーしてほしい曲がいくつか浮かびました。それはまた、次の機会に。

まあ、そんなふうに、ソングライターというのは、誰にも知られることのなかった曲、というのを、実はいつまでも憶えているものなのです。いや、作った当人が忘れている歌も、もっとたくさんありますが。

きのう、本屋さんで買った阿久悠の「なぜか売れなかったぼくの愛しい歌」という文庫本、これから読むのですけれどね。どんなことが書いてあるのでしょうか。つい最近、ぼくも「BRUTUS」という雑誌のために、「阿久悠論」みたいなモノを書いたのですが、この文章の締めの言葉が、この文庫本の巻末の北沢夏音さんによる解説と同じで参りました。考えることは誰でも同じ、「また逢う日まで」というもの。もっとも、ぼくの文章の方は、編集者の方の提案で「また遇う日まで」というふうに変わりましたが。阿久悠さん。200曲以上ものヒット曲を持つ人ですが、5000曲以上も書いているのですよ。なぜか売れなかった4800曲、という単純計算にはならないのでしょうけれど。

さて、7月もあと2日。きょうの「レコード手帖。」はBOOT BEAT神谷直明くんの出番です。神谷くん、藤澤志保さん、そして「JOKE」の堀部遊民くん、同じく「JOKE」の藤本曜くんの楽しいトラックが入ったアナログ盤は8月中にはリリースされる、と聞きました。ワタクシの知り合いの、the 5243's 、というヤツらのトラックも収録されてますので、宣伝しておきますね。

8月からの特集ページ、進行具合はどーなんだろー。ちょっと心配ですが、それでも8月はやってくる。ほーしーつくつくの、蝉の声です。ぎんぎんぎらぎらの、夏なんですよ。更新です。

(小西康陽)