過去は変えられない。でも、子どもたちの未来は変えられる…
数年前のあたしは、家庭で育とうが、施設で育とうが、単に育つ場所の違いであり、何も問題ないと思っていたの。いえ、思おうとしていた。
Edwardさんと知り合い、いろいろ話すようになったの。そのころのあたしは、どちらかというと、養護施設で育っても、なんの問題もなく育っていることを証明することに躍起だったの。
そして、自分が抱える問題は、施設で育ったことが理由ではなく、単にあたしに根性が無く、あたしの努力が足りないからだと思っていたの。
Leiちゃんと一緒にEdwardさんに会うことがあり、開口一番こう聞かれたの。
「Mariaさん、あなたが子どもを産んだら、施設に入れますか? それとも、自分で育てますか?」
Maria「変なことを聞かないで欲しいわ。自分で育てるわよ。養護施設で育ったって、子育てくらい出来るわよ。」
edward「どうしてですか? 養護施設でも問題ないでしょう?
あなたは、養護施設で一人で生き延びて来たのでしょう?
では、どのように育てますか?
ミルクを飲ませ、オムツも替えたのに、赤ん坊が一時間泣き続けたら、どうしますか?」
Maria「そりゃあ、泣いても無駄だということを教えなきゃいけないし、泣きやむまで放置しておくわよ。抱き癖も良くないし…」
Edward 「子どもが好き嫌いをして、野菜を食べなかったらどうしますか?」
Maria 「口に野菜を突っ込み、飲み込むまで見張っているわよ。」
Edward 「子どもが嘘をついたらどうしますか?」
Maria 「嘘をつく口をおもっいきりつねりあげ、…」
Edward 「自分の子どもが相手の子どもをケガさせたらどうしますか?」
Maria 「目には目、歯には歯で、同じところを…」
Edward 「自分の子どもが、ケンカして負けて帰ってきたらどうしますか?」
Maria 「そりゃあ、相手をやっつけるまで帰ってくるな…」
Edwardさんが提示する、子育てのそれぞれの場面の問いかけに、即座に浮かぶイメージを答えるあたし。
そして、あたしの理性が、自分の口から出てきた残忍な言葉に驚く。あたしの理性は、あたしの言葉が虐待だと告げる。だけど、あたしは、あたしの理性の指摘に納得しないの。
ふざけるな! あたしは、そうやって育ってきた
Edwardさんがいう。
「ヤクザになったある養護施設の卒園生が、『オレは殴られて育ったおかげで根性がついた。根性をつけてくれた施設には感謝している』と言いました。人は、殴られ、罵られ、性的な行為をされた子ども時代でさえ、肯定して生きようとします。」
あたしの頭は、オーバーヒートしそうになりながら、懸命にフル回転する。
あたしの理性と感情が激突し、あたしが二つに引き裂かれる。
ふざけるな! あたしは、そうやって育ってきた
あなたは、同じように自分の子どもを育てたいの?
Edwardさんがたたみかける。
「過去に目を閉ざすものは、未来にも盲目であるといいます。子どもの育ちへの正しい知識を持ち、自分がそこからどう外れて育てられたかを理解し、本来、どう育てられるべきかを学ぶべきです。」
あたしの理性は、なにが正しいのか、理解している。
だけど、あたしの中の何かが爆発する。
ふざけるな! あたしは、そうやって育ってきた
だから、Edwardさんは苦手…
冷静に正しいこと、でも納得できないことをいう男は大嫌い…
でも…、
あたしは、自分の感情を理性でねじ伏せてきた鉄仮面女。
Edwardさんは、最後にとどめを刺す。
養護施設だけで育った、私たちの過去は変えられない。
だけど、いま乳児院・養護施設にいる子どもたちの未来は変えられる。
施設を出た私たちが、大人として何をすべきなのか。
子どもたちを、施設に囚われさせ続けるのか、
子どもたちを、施設から里親家庭に解放するのか、
私たちが声を上げなければ、
誰も養護施設の子どもたちの声なき声を聞かないだろう。
当の施設育ちたちでさえ、養護施設で育った過去を肯定しているのだから…
そのことで、子どもたちは施設に囚われ続けるのだから…
あたしとLeiちゃんは、
何が正しいことなのか知ってしまった。
乳児院・養護施設だけで育つ子どもが、本来、どこで育つべきか知ってしまった。
だから、大人として行動する。
子どもたちを、施設ではなく里親家庭で育てて欲しいと主張する。
養護施設だけで育つことは、子どもへのシステム虐待だと主張する。
養護施設を肯定する施設育ちを敵に回しても、主張する。
あたしとLeiちゃんは叫び続ける。
養護施設で育ったあたしたちの過去は変えられない。
だけど、いま施設で育つ子どもたちの未来は変えられる、と…