1999年7月19日、私は浜松町の東芝本社ビル上層フロアの会議室で行われた会見の席にいました。その場に現れ、深々と頭を下げたのは、町井徹郎副社長(当時、2004年10月死去)。東芝製ビデオデッキの修理を巡って社員が顧客に暴言を浴びせた件で東芝側が全面的に謝罪した、あの“東芝ビデオ事件”です。
[参考]
ビデオ修理クレーム事件で東芝が全面謝罪[1999年7月19日]
一消費者が大企業を謝罪に追い込んだエポックな事件から9年。その間も、日本生命が2ちゃんねるの書き込み削除を求める仮処分を申請して騒ぎが広がったり(2001年)、エイベックスが2ちゃんねるのマスコットキャラクター「モナー」を模倣した「のまネコ」を自社キャラクターとして商品化してバッシングを浴びたり(2005年)といった事件が起きました。企業の対応のマズさから“炎上”を“延焼”させる例が後を絶ちません。
今回、火の手が上がったのは毎日新聞社でした。英文サイト「毎日デイリーニューズ」(MDN)上のコラム「WaiWai」で下品かつ誤った記事を発信したことで、2ちゃんねるを中心に“祭り”が起きてコラムが閉鎖に追い込まれ、広告主企業への“電凸”によってニュースサイト「毎日jp」から広告撤退が続いているという事件です。
[参考]
毎日新聞社による英文サイト問題お詫びと検証[2008年7月20日紙面]
「毎日jp」が自社広告だらけに、ネット上に深いつめ跡残る[2008年7月8日]
この事件が発生し、かつ火に油を注ぐ形になった要因として、二つの点に注目しています。
一つは「PV(ページビュー)至上主義の罠」。毎日新聞は7/20付けの検証紙面で担当記者の発言を載せています。
かつてライブドアの堀江貴文氏が「メディアを殺す」と言っていたころ、「ニュースの掲載順はアクセスランキングで決めればいい」旨の発言をして、旧来メディア側は一斉に反発しました。埋もれている話を発掘して知らしめようとするジャーナリズムの精神とは相反する考えだったためです。
しかし実際のところ、メディアサイトはPVの規模が広告媒体としての価値となるため、PV増は大きな目標です。アクセス数上位の記事を調べてみたら、低俗記事が人気だったらどうするか…。さらに過激な記事を連発すれば目先のPVは増やせますが、やり過ぎれば媒体の看板を汚します。ここらへんの舵取りが、外国人担当者にお任せ状態だったこともあって疎かになったのでしょう。PV至上主義の罠と言えそうです。
もう一つは、「被害者意識が命取り」。
毎日新聞の検証記事で特に目に留まったのは、『気がつけば騎手の女房』でお馴染み、吉永みち子さんの見解です。
炎上が延焼してしまう場合、大抵この「被害者ぶること」が絡んでいます。東芝ビデオ事件は電話応対そのものがそうですし、のまネコ事件でも幹部の殺害予告書き込みの方がクローズアップされたことが、ネットユーザーの態度をさらに硬化させることになりました。雪印事件の「寝てないんだ」もこれに該当しそうです。
毎日新聞を巡るネットユーザーの怒りには、記事内容そのものや幹部の処分内容など様々な要素が絡み合っていますが、2ちゃんねるを見ていると、「法的措置」という言葉にひときわ大きな反発の声が上がっていました。最大の“燃料投下”になっていたようにうかがえます。
毎日新聞が見開き2ページを割いてお詫びと検証を掲載したことで、事件は一段落ついた感はあります。が、ネット上では延焼がまだ続いています。他社広告の入った「毎日jp」に戻るのはいつになるのか。まだ落としどころが見えない状況です。引き続きウォッチしたいと思います。
※7月24日に配信した「日経ネットマーケティング」読者向けメールマガジンのコラム記事です。