通信事業者は販売代理店に、販売台数が増えるほど1台当たりの収入も増える課金体制を構築したが、この方法は販売が右肩上がりであることが前提。「販売が減ると、乗数効果で収入が減ってしまう」(販売代理店)。
「通信事業者は予想販売台数の変化を頻繁に明かさないのも問題。例えば、NTTドコモは今年の販売台数を昨年と横ばいと見るが、販売代理店はこの予測に応じて販売計画を立てて予算を組む。店頭の人員などを急に減らせない。販売予測の責任はドコモにもある」(販売代理店)という声も出ている。
端末各社も、新端末が発売されると、前のモデルが売れていても受注を止める通信各社に改善を求める。人気商品を1年間販売し続けることさえできないからだ。「年3回の商戦すべてに革新的な端末を出すことは難しく、年に1回はデザインなどの一部改良になる」(パナソニックモバイルコミュニケーションズの佐藤健夫・技術管理グループマネージャー)。だからこそ、1つの商品を長く売る仕組みが必要だ。
アップルは奨励金で普及狙う
一方、海外勢は一段と攻勢を強め、高機能端末の市場も狙っている。米アップルは、日本でタブー視された販売奨励金を、通信事業者に支払うように要請。高速通信ならではの新しい機能を普及させることを狙う。
通信事業者との足並みが揃わず、変革が進まなければ、日本勢が先行してきた技術力は肝心な局面で発揮されず、海外勢に追いつかれてしまう。海外市場から隔絶され、「携帯のガラパゴス」とも呼ばれてきた日本市場は日の目を見ないまま沈没してしまう危機さえ迎えかねない。
携帯端末、足し算から引き算の時代に
画面に触れ、指をすべらせて電話帳をめくったり、曲を探し出したりする感覚。「iPod touch(アイポッド・タッチ)」や「iPhone(アイフォーン)」の売り物でもある操作性だが、実はiPhoneの専売特許ではない。
ウェブサイト上などで立体映像を表現するソフトを提供するヤッパ(東京都千代田区)が携帯電話向けに開発した「Spin UI エフェクトエンジン」を搭載すれば、他の携帯電話でもiPhoneの気持ちよい操作感覚が実現できる。
「操作性の気持ちよさが大事」と語るヤッパの伊藤正裕社長
「iPhoneのおかげで日本の携帯電話も変わる好機が来た」。8年前、17歳で起業した伊藤正裕社長はこう期待する。初代iPhoneの登場以来、国内外の通信会社、端末メーカーから問い合わせが急増し、「2009年は世界で2億台の端末に搭載される計画」という。NTTドコモの今夏モデル「SH906i」やウィルコムの「WILLCOM03」などにも搭載され始めた。
ただ、伊藤社長の表情はいま一つさえない。その理由は、日本の携帯電話はこのソフトを導入しても能力を十分に発揮できないからだ。「以前から積み上げてきた機能が多すぎて、うちのソフトをスムーズに動かすための容量が足りない」。日本の携帯電話が積み重ねてきた開発の歴史こそ、逆に競争力の低下を招いているという。
日本の携帯電話端末は、カメラの画素数を高め続け、薄さで競い合い、ワンセグ機能は当たり前の世界に入っている。使い勝手より、高い機能を優先してきた。端末メーカーは通信事業者から半年ごとに新機能を要求され、さらに何種類もの端末を作らなければならなかった。次々に新しいものを作り出すため、端末の寿命は短くなる。
この構図が問題なのは、端末の進化が「足し算」で出来上がったことだ。従来の機能を捨てずに積み上げてきたため、iPhoneのような従来の発想とは全く違う端末は生まれにくい。伊藤社長は「新規参入の台湾勢などが思い切った製品開発に踏み切れるのに対し、日本では難しい」とこぼす。
携帯電話が「電話」の枠組みを超えようとしている今、日本の携帯電話端末が従来の発想から変われるかどうか。それは足し算から、機能を捨てる引き算に踏み切れるかどうかにかかっている。
(中原 敬太)
日経ビジネス2008年7月28日号14ページより