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【考論】

西側諸国の見解超えた団結 倉田 徹

2008年7月28日

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中国・改革開放30年の成果

 中国にとって二〇〇八年は、北京五輪開催に向けた祝賀の年となるはずであった。しかし実際には、年初の雪害、三月のチベット暴動、五月の四川大地震と立て続けに困難に見舞われている。だがこれらの代償を払うことで中国政府が確実に手に入れたものは、国民の「団結」であった。

 聖火リレーが西側諸国でチベット問題の抗議活動に妨害されるのを前に、多くの中国人は中国国旗を振ってこれに対抗した。四川大地震の被災地には、各地からボランティアが駆けつけた。これらの動きに中国政府の後援はあったにしても、参加者は自らの意思でこれに加わっており、強制参加のいわゆる「官製デモ」ではなかった。筆者は「改革開放三十年の成果」を見せつけられた気がした。

 一九七八年、●小平は改革開放政策を導入し、共産党の政治体制を維持したまま、経済面で資本主義的改革を断行した。西側諸国は、このような矛盾した体制は経済発展に伴い、いずれ民主化されるものと期待した。特に、冷戦の終結と軌を一にして発生した八九年の学生運動は、中国でも東欧と同様の事態をもたらすと予想された。中国政府は体制の転覆を極度に恐れ、学生運動を武力弾圧し、西側からの情報を封鎖した。「天安門事件」の発生である。

 ところが、今回のチベット問題においては、中国政府はBBCなどの西側メディアのホームページを国民に自由に閲覧させ、「西側の報道がいかに偏見と虚偽に満ちているか」を示した。結果、西側諸国の「国家転覆の陰謀」を前に、中国国民の多くが政権支持に回ったのである。天安門事件以来の二十年間に、中国はかくも自信を深め、大胆になったのである。

 西側諸国民にとって、自由を認めない共産党政権が支持されることは不可解かもしれない。実際、現政権に問題点は山ほどある。しかし、戦争や内乱の辛酸をなめ続けた中国人にとって、長い歴史の中で最も国民生活を改善させている安定した政権が、現政権であることも確かなのである。このような認識なしに、圧力一辺倒で中国を変えられると考えるのは、西側諸国の幻想であり、傲慢(ごうまん)なのかもしれない。

 (金沢大人間社会学域国際学類アジアコース准教授)

(●は、登+おおざと=トウ)

 

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