【第37回】 2008年07月25日
孫社長を窮地に追い込むソフトバンクのセキュリティ対策リスク
実は、この姿勢は、総務省において、NTTドコモとソフトバンクモバイルが同席するヒアリングが行われ、その席で、PDCの暗号を解読する技術の存在をNTTドコモが証言した後も一向に変わらなかった。こうした態度が、「ユーザー軽視だ」と関係者の間で大変なヒンシュクを買っているという。
こうしたソフトバンクモバイルの懲りない姿勢を見て、通信業界で、電気通信事業法が規定する「業務改善命令」と「技術基準適合命令」の二つの発出を求める声が高まっている。
前者は、事業法の第29条が規定するもので、「通信の秘密の確保に支障があるとき」にも発することができるものだ。
また、後者は同法第43条に規定されている。そもそも同法の第41条は、「通信の秘密が侵されないようにすること」を「技術基準」として、その基準の維持を通信事業者に義務付けている。これに適合しないと認めるときは、第43条の技術基準適合命令を出して是正するよう求めることができるのだ。
ライバル他社からは
厳しい処分を求める声も
総務省では、いきなり業務改善命令や技術基準適合命令を出すのは過激過ぎるので、手始めに、もう少し穏便な指導文書を発出してはどうか、との意見も根強いという。しかし、一向にソフトバンクモバイルが反省する様子もなく、400万のPDCユーザーのセキュリティの穴を迅速に埋めようという姿勢を見せていないので、2つの命令を「当然、必要な措置だ」とみる向きもある。
さらに、こうした措置でも不十分との見方もある。これまでセキュリティの強化を怠ってきた行為は、「むしろ経営としての怠慢であり、すでに単なる業務改善命令や技術基準適合命令といった是正策だけでなく、もっと厳しいペナルティを科すのが業界の信頼を維持するうえで必要だ」(ライバル事業者)といった声がそれである。4月からの3件のトラブルに加えて、同社が今回このような問題を抱えていたことが判明しただけに、悪質との見方を完全に否定するのは難しいという。
いずれにせよ、ソフトバンクモバイルがこうした行為を繰り返すならば、同法第14条の「登録取り消し」、つまり事実上の市場からの退出命令や、同法第126条の「認定の取り消し」(公益事業特権の剥奪)、同法186条の「罰金」を求める声が説得力を増しかねないことを、孫正義社長は早急に肝に銘じる必要がありそうだ。
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町田徹
(ジャーナリスト)
1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。
硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!