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社説1 金融市場の小康で調整する原油相場(7/29)

 原油相場が調整局面に入った。ニューヨークの先物市場で指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)期近物相場は7月11日に1バレル147ドル台の最高値を記録した後、下落に転じ、先週末には一時122ドル台まで下げた。

 年初に100ドルを超えた後の5割近い上昇はあまりにも急激だった。原油先物相場の調整は起こるべくして起こった。その背景にあるのは、米国での商品先物市場への監視強化や株式市場の空売り規制の動きであり、米住宅公社2社への支援法案成立に伴い金融市場全体に小康状態が訪れたことだ。その結果、これまで原油先物の高騰を導いてきた投資資金の流れが変わりつつある。

 米国で信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題を発端とする金融不安が深刻化した昨年秋から、市場で株売り、ドル売り、商品先物買いの流れが続いた。

 だが、原油や食料の高騰に危機感を強めた米議会が当局を突き上げる形で、先物市場を監督する商品先物取引委員会(CFTC)が5月下旬から市場の監視強化に動き始め、先週には原油先物の相場操縦容疑で投資ファンドの起訴に踏み切った。

 米議会では、1つの商品への一投資家の持ち高を厳しく制限する先物投資規制法案も提出されている。監視や規制を嫌う投資家の一部は原油先物相場で買いから売りにまわり、ヘッジファンドなど実需を伴わない投資家は直近で1年5カ月ぶりに売り越しに転じるまでになった。

 米証券取引委員会(SEC)が金融機関19社の株式の空売り規制を導入したのに続き、コックスSEC委員長は空売り規制をすべての上場銘柄に広げる考えにも言及した。これが株価の先安観を抑える“口先介入”効果を発揮した。ドル相場も1ユーロ=1.60ドル台の最安値から1.57ドル前後へと戻ってきた。

 先物市場で原油買いとセットになっていたドル売り、株売りの構図が取りあえず崩れ、ポジションの巻き戻しによって原油先物からの投資資金流出が加速したようだ。

 さらに先週発表された米国のガソリン在庫急増は、先進国の石油の実需冷え込みを印象づけた。新興国の需要増に伴う中長期の需給逼迫(ひっぱく)懸念は続くが、大きな「地政学リスク」だった米・イランの緊張も取りあえず緩和している。

 原油相場の行きすぎが是正され市場が小康を保つ今こそ、米政府は金融不安の解消に向け金融機関の資本充足や住宅市場の下支えなどの抜本策を進めるべきである。

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