日本海に浮かぶ竹島の領有権をめぐる日本と韓国の対立が両国関係に影を落とし始めている。文部科学省が中学校の新学習指導要領の解説書に初めて竹島問題を記載したことに韓国が激しく反発しているからだ。
李明博(イミョンバク)大統領は解説書が公表されると直ちに反応し、「深い失望と遺憾の念を禁じえない」と述べ、駐日大使を一時帰国させた。ソウルの日本大使館前では抗議集会も開かれた。今週、シンガポールで東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)が開催されるが、例年はこれに合わせて開かれている日韓外相会談も見送りの見通しとなった。
各紙は解説書公表の翌日の社説で一斉にこの問題を取り上げたが、重点の置き方は一様ではなく、主張にもそれぞれの違いが出た。
解説書は北方領土についてだけ「我が国固有の領土」と明記した。竹島問題は北方領土問題のあとに取り上げ、「また、我が国と韓国の間に竹島をめぐって主張に相違があることなどにも触れ、北方領土と同様に我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である」との記述を加えた。
解説書への竹島問題記載と、その記述の仕方に対する各紙の受け止め方を見てみる。
毎日は「日韓両国に主張の相違があることを指摘したことは韓国側への配慮といえる。一方で『北方領土と同様に』という記述で、竹島の固有領土明記を求める勢力にも気を配っている」と指摘した。韓国側への配慮を加えた記述の仕方に一定の理解を示したものだが、すっきりしない言い回しになったことについて「現場の教師を惑わすだろう」と付け加えた。
朝日は「韓国側の怒りも分からぬではないが、解説書では竹島の領有権をめぐって日韓の間の主張に相違があることを客観的に明記している」、東京は「配慮のあとが見える」としたうえで「抑制が利いたというより、気を使いすぎてまわりくどい表現になっているほどだ」と記した。
日経は朝鮮半島情勢全般を論じ「竹島は日本の領土である。領有権を守る大原則は譲れないが、日本側は『韓国との主張に相違がある』との表現を盛り込み、韓国側に配慮した」との見方を示した。
一方、読売は「日本の領土として、北方4島は、指導要領や解説書に加え、地理と公民の中学教科書全14冊に書かれている。竹島も4冊に記述があり、今回、解説書に記載されたのは遅すぎたぐらいだ」と指摘した。
これに対し、産経は「竹島が日本固有の領土であることがはっきりと書かれておらず、大いに不満が残る」とし、「領土問題は日本の主権にかかわる問題である。その指導のあり方を示す解説書に外交的配慮を加えたことは、日本の公教育の将来に禍根を残したといえる」と政府の姿勢を批判した。
竹島について日本政府は「歴史的事実に照らしても、国際法上も明らかに我が国固有の領土」との立場で一貫。韓国側の主張に対しては「我が国が竹島を実効的に支配し、領有権を確立した以前に、韓国が同島を実効的に支配していたことを示す明確な根拠は提示されていない」(外務省ホームページ)と反論している。日本が自国の立場を主張するのは当然である。
日本の主張に韓国は異を唱えているが、竹島の領有権問題は日韓国交正常化の際に決着を棚上げした未解決の案件である。韓国は自国の教科書に「独島は我が国の領土」と記述している。日本が学習指導要領の解説書でこの問題を取り上げたからといって猛反発するのは過剰反応ではないだろうか。
しかし、だからといってこの問題で日韓関係が損なわれてもいい、ということにはならない。小泉純一郎元首相と盧武鉉(ノムヒョン)前大統領の時代に歴史認識や靖国問題で冷え込んだ日韓関係は、今春の福田康夫首相と李大統領の相互訪問を経て「新時代」の関係へ踏み出そうとしている矢先のことだ。
そうした流れの中での日韓関係を重視する立場から、多くの社説は韓国の、あるいは日韓双方の冷静な対応を求めた。
毎日は「一朝一夕には解決が難しい問題で大切な日韓関係を逆戻りさせては何の得にもならない」、朝日は「大多数の日本国民は良好な日韓関係を維持したいと望んでいる。日本政府はあらゆる機会にそのことを韓国に丁寧に説明すべきだ」と訴えた。
日経は「対立を大きな政治問題にしないよう、日韓政府の努力を望みたい。日韓対立の激化は北朝鮮を喜ばすだけである」、東京は「両国政府には、これ以上に政治問題化することがないよう冷静さを期待したい」とした。読売も韓国に冷静な対応を呼びかけた。
意見の相違があっても対話の窓は閉ざさない。その中で知恵を出し合い、互いの距離を縮める努力を続ける。それが、成熟した関係というものだろう。9月をメドに東京で日中韓の3カ国首脳会合が予定されている。福田首相と李大統領にはそうした機会も生かしてほしい。【論説委員・森嶋幹夫】
毎日新聞 2008年7月20日 東京朝刊
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