社説ウオッチング

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社説ウオッチング:洞爺湖サミット 環境宣言「米に配慮」

 ◇「先進国の責任示されず」--毎日

 ◇「一定の前進だ」--読売

 北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)が終わった。議長国の日本にとって、政治・外交面での今年最大のイベントとあって、期待や要望を提示した前触れも含めて、各紙は連日のように、サミット関連の社説を掲載した。

 最大のテーマは地球温暖化問題への対応だったが、原油など資源や、食糧価格の急騰という、私たちの生活を直撃している問題に、サミットのメンバーの主要8カ国(G8)がどのような対応策を示すのかが注目された。

 開幕に合わせた社説でも、「過剰な投機抑制で行動を」(産経・5日)、「食料高騰をどう食い止める」(読売・8日)といった見出しを取り、景気減速下でのインフレという喫緊の問題への対応を求めた。

 米国のサブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)問題をきっかけに揺れている金融市場の立て直しも課題で、株安も続き、「サミットは金融市場の不安に応えよ」(日経・8日)という主張も展開された。

 毎日は、「地球の危機救う論議を-環境、経済で米の責任大きく」(5日)という見出しを立てた。

 そして、温室効果ガスの排出抑制、金融市場の安定化、食糧価格の沈静化のいずれについても、米国の対応がカギを握っている点を強調した。

 さて、注目されていた地球環境問題についての評価だ。昨年の独ハイリゲンダム・サミットの合意を前進させることになったのかどうかがポイントとなる。

 G8環境宣言に対し9日の社説では、「米国を含め、G8諸国が長期目標を国連の会議で採択するよう求めたことは、一定の前進だ」(読売)、「問題解決へ向けた一定の方向性を打ち出すことはできたようだ」(産経)と、前進と受け止める見解の一方で、日経は「40年も先の、法的拘束力のない長期目標の再確認を、前進と呼べるほど、温暖化を巡る状況は甘くない」と指摘した。

 「2050年までに世界の排出量を少なくとも半減させるという目標についてのビジョンを、国連気候変動枠組み条約の締約国と共有し、採択することを求める」という環境宣言の内容は、ハイリゲンダム・サミットの、「真剣に検討する」よりは、前進したということになるのだろう。

 しかし、毎日は「先進国自らが、どこまで自分たちの責任を果たそうとしているかも具体的に表明されていない」と指摘したうえで「これはどの程度の前進といえるのか」と疑問を示した。

 ただ、肯定的に評価するにしても、「あいまいな表現も多く、具体化に問題を残した」(産経)というように積極的なものではない。

 中国、インドなどを抜きにしたG8だけの合意に米国が否定的で、その「米国の主張を色濃く反映した」(読売)ことがその原因だ。

 ◇数値目標なく落胆--朝日

 米国に配慮した妥協の結果という見方は、各紙社説の共通した認識だったが、朝日だけは「一歩踏み出した」「米国を日本や欧州が押し切り、国連主導の流れを確かなものにした」と、異なる認識を展開する。

 ただし、主要経済国会合(MEM)の首脳会合を経た翌10日は一転し、「主要排出国が一緒になって数値目標の入った旗を立てることはできなかった」と落胆を示す。

 サミットは、国連安保理の常任理事国ではない日本にとって、国際的に存在感をアピールできる機会だ。議長国として日本が会議を取り仕切るということになると、期待が増すのも理解できる。

 しかし、宣言や声明などの文書は、事前の折衝で文案を固め、各国の利害を調整した妥協のうえでまとめられる。しかも、13年以降の温室効果ガスの排出抑制策を決めるのは来年末に開催される国連の気候変動枠組み条約交渉の場だ。

 洞爺湖サミットは、G8だけでなく主要排出国の首脳が集まり、地球環境問題を論じる重要な会議とはいえ、来年末まで続く長丁場の駆け引きの中での出来事のひとつという位置づけもできる。

 さらに、サミットは、首脳たちが協力・協調し、世界の問題に結束して対応しようとしている姿を世界に示すことが目的で開かれていることも忘れてはならない点だろう。

 温室効果ガス抑制で高い目標を掲げることを求めてきた欧州各国首脳が、サミットの成果を評価したのも、そのためだ。

 「次期米大統領の登場を待つ欧州にとって今回のサミットは、いわば中継ぎ」「今回の首脳間の合意は、これからの交渉が円滑に進むと約束するものではない」(日経・10日)というのが、冷静な見方だろう。

 「米国は来年、政権が交代する。米国を巻き込んで、解決に向けた積極的な行動に踏み出せるのかが、G8に突きつけられた課題で、日本としても姿勢が試されることになる」と毎日は10日の社説で、洞爺湖サミットを締めくくった。金融、エネルギー、食糧の問題も含めて米国の変化を期待する状況がまだまだ続くことになりそうだ。【論説委員・児玉平生】

毎日新聞 2008年7月13日 東京朝刊

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