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2008年7月29日

◎浅野川洪水被害 都市型水害への備え急務

 金沢市街を流れる二つの川は文化や伝統産業をはぐくみ、人々の心を潤す存在であると ともに、ときには人間の制御がきかず、荒れ狂う自然の恐ろしさを都市に出現させる。五十五年ぶりに市街地ではんらんした浅野川の被害は、人々が忘れかけていた都市河川の負の側面と、そこに潜むリスクの大きさを見せつけた。

 都市機能をまひさせ、住民の命をも奪いかねない河川の潜在的な脅威は、近年の異常気 象でますます高まっているような気がする。浅野川はんらんに象徴される今回の被害を教訓に、地球温暖化との因果関係も指摘される短時間集中豪雨の多発を見据えた総合的な水害対策が急務である。

 金沢にとって市街地を並行して流れる犀川、浅野川の治水対策は、近世の城下町建設以 来の宿命的な課題といえる。戦後は河道整備や護岸工事などが着実に進められてきた。だが、今回は浅野川上流域の湯涌地区で一時間一三八ミリという例のない豪雨が観測され、まさにバケツをひっくり返したような大量の雨水が一気に流れ込み、河道の排水能力を超えた。

 市街地で被害が集中した主計町周辺は海抜が低く、川幅も狭い。歴史を振り返れば、金 沢の河川洪水のアキレス腱ともいえる場所である。主計町が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されるなど浅野川流域は文化財の集積度が高まっている。万一、堤防から川水があふれたとしても、それを上手に排水できる内水対策を充実させる必要がある。

 浅野川は地形上、ダム適地がなく、犀川と違って洪水調整機能をダムに頼れない河川で ある。このため、上流部で犀川へ水を流す放水路がダムの代替機能を担っている。放水路は犀川の受け皿が整っていけば、より多くの水を流せるという。浅野川の水害リスクを減らすためには犀川の治水機能向上も重要である。

 北陸を襲った今回のような短時間豪雨は今後も増えることが予想される。被害を完全に 防ぐことは困難としても、減らすことはできる。都市化で水系のどこが弱点になっているのか子細に点検し、災害に強い地域づくりを一歩ずつ着実に進めていきたい。

◎WTO調停案 受け入れはやむを得ぬ

 日本には厳しい案でも受け入れざるを得ないだろう。世界貿易機関(WTO)の新多角 的貿易交渉で、ラミー事務局長の示した調停案を拒否すれば、国際的に孤立しかねない。国民全体の利益を考えて、決断してほしい。

 新多角的貿易交渉というと、国内農家の保護にばかり目が向きがちだが、新ラウンドの 狙いは、自由貿易の推進と世界経済の活性化にある。農産品関税の引き下げは生産者には不利でも、消費者にとっては必ずしもマイナスではない。鉱工業品関税の場合は引き下げによって、国内企業が潤い、税収も増える。日本はサービス、投資などを含めた自由貿易体制の恩恵を最も受けている国の一つであることを忘れてはなるまい。

 日本は、新ラウンドの開始にあたって、すべての農産物の関税を一律に削減する「上限 関税」に反対し、例外的に高い関税を課すことを認める「重要品目」の数を増やす方針で臨んだ。しかし、日本が掲げていた重要品目8%の要求は一顧だにされず、原則4%、一定量を低関税で輸入する代替措置を取った場合、さらに2%上乗せが認められる6%を確保するのがやっとだった。

 与野党の議員などから、日本の主張が認められなければ交渉を決裂させよ、という勇ま しい声も聞かれるが、新ラウンドで大筋合意できないと米大統領選などの関係で、仕切り直しの時期は大幅に遅れてしまう。エネルギーや穀物価格の高騰で、輸出国に売り惜しみや輸出規制など保護主義的な動きが表面化している。そうした危険な動きを封じるためにも大筋合意を急ぐ必要がある。

 日本の食料自給率が年々下がり続けている原因を、農産品の輸入自由化のせいにするの はたやすいが、農産品を高関税によって守り続けることは、いかなる国であれ難しくなってきている。日本だけの特殊事情ではない。

 また、バラマキ型の補助金では、農家の体質強化にはつながらないのも確かだ。遠回り なようでも農作業の生産性や農産物の質、安全性を高めるなどして、国際的な競争力をつけていくしかない。


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