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『御手洗潔の挨拶』 島田荘司 [島田荘司]

島田荘司が創造した天才型探偵・御手洗潔の第一短編集『御手洗潔の挨拶』を久々に再読しました。

1980年代、『斜め屋敷の犯罪』と『異邦の騎士』の間に発表された短編を集めたものです。
収録作品は、
「数字錠」
「疾走する死者」
「紫電改研究保存会」
ギリシャの犬」
です。
一般的には「数字錠」の評価が高いですが、いま読み返すとあまりに“心温まる物語”を演出しすぎているきらいがあります。
やはり世評の高い「疾走する死者」は、メイントリックが島田荘司お得意の××××を利用したものであること、それから御手洗の推理がかなり直感的であることが気になります。

それよりも、コナン・ドイルの「赤毛連盟」を彷彿とさせる「紫電改研究保存会」が面白い。
展開は強引で、犯人がそんな行動をとる合理的な理由に乏しいことに読後気づきますが、読んでいる間は「この物語はどう転がっていくのだろうか」と興味を切らさないストーリーテリングに舌を巻きます。
そして最後の「ギリシャの犬」は、一種の暗号物。隅田川での水上捕り物が新鮮でした。

この「ギリシャの犬」や「疾走する死者」、そして長編の『斜め屋敷の犯罪』や『暗闇坂の人喰いの木』など、島田荘司のトリックは、“立体的な視覚イメージ”から考え出されたものが多いです。
そこが島田の特長のひとつです。
また、道具立てが大きい。『アトポス』では、巨大な“道具”まで駆使します。
小道具の使い方が上手い東野圭吾とは対照的な本格作家です。

島田荘司は、このように本格作家としてその要素を分析しても、かなり“異端”であります。
そこが島田が、(良い意味でも悪い意味でも)他の作家たちから浮き上がっているように見える理由のひとつだと思います。


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コメント 2

天下布武

あまりにも心温まる演出・・わかるような気がしますッ

読み返そうと思ったら、ないっ 売っちゃったのか・・
なんと薄情~

しかし、この短編集は昔はまりました。
この頃の島田荘司は会社の理不尽な上司や
上下関係というようなものに怒りを燃やしていましたね。
怒りすぎた森村誠一かと初めは思ってました。

「紫電改・・」は、あの購入者が自分の○に
いつもほどこす癖、しかもそれを盗み○ることなんて
果たして可能か~、と疑問には思いましたが、
作者がやってみたかった効果なんだろうなあ、と
しみじみしました。

おっしゃるとおり、視覚的立体的なイメージに
溢れていますよね。
わたしは「ギリシャの犬」に恐れを抱きました。

作者は年中こういうことを考えたり見つけたり
してるのかと。たんなる地図マニアかもしれませんけど。
この暗号には一本とられた感じで綺麗な謎だったと
思いました。

島田荘司は、議論推論型のミステリは苦手なのかも
しれませんね。
話し合い、ということもきっと嫌いだと思う。
本当の話し合いなんて日本にはないっ とか言い出しそう。
しょせんは意見の押し付け合いだっとか・・^^
自分も絶対折れない感じですよね。

人間の議論や話し合い、類推を超えたところに
とんでもない真相があり、それを天才が解いていく、
おそれいったかまいりましたの上意下達雷雨型
ミステリかもしれません。

はからずとも、氏の嫌う日本型会社組織に
なってしまうミステリ、という点が皮肉で、
綾辻たちは離れてしまったのでしょう。

そういうミステリ好きですけどね。
論理的な謎を少しづつ解かせるミステリって
書こうにも力がないす(ToT)
by 天下布武 (2007-09-05 03:55) 

編集責任者

『御手洗潔の挨拶』はまだ島田荘司がキラキラ輝いていたころの出版でした。
読む前から、
「この小説では、またドエライことをしてくれてる!」
というオーラが本から漂っていたものです。

それが『アトポス』あたりから「あれれ……」ってなって。

「ギリシャの犬」は、暗号というか謎のメモが、あのような書かれ方にせざるをえない合理的な理由があるところが美しいです。
by 編集責任者 (2007-09-09 00:27) 

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