大分県の教員採用試験をめぐる汚職事件で商品券の授受があったとして、大分地検は収賄罪で県教委の元教育審議監を起訴、元義務教育課参事を追起訴するとともに、贈賄罪で元同課参事を追起訴し、妻の小学校教頭を起訴した。腐敗構造の全容解明が求められる。
起訴状によると、二〇〇六年に行われた小学校教員採用試験で元教育審議監と元参事は、教頭夫妻から依頼された長女の合格に便宜を図った謝礼として、それぞれ百万円分の商品券を受け取った。長女は勤務していた小学校を退職した。収賄罪に問われた元参事は、〇七年の小学校教員採用試験でも女性元小学校校長=贈賄罪で起訴=から現金と商品券を受け取ったとして収賄罪で起訴されている。
子どもたちを正しく導くべき教育界で、金品の授受や不正がまかり通ってきたことにあきれてしまう。これまでの調べで採用担当だった元参事は〇六、〇七年で点数操作により合格者全体の半数に当たる約四十人を不正合格させたとされる。
依頼された受験者の成績を加点する一方、一般受験者の点数を減らして調整していた。中には百点以上加点して合格させたケースもあるそうだ。不正行為を隠すためか、答案用紙を年度末ごとに廃棄していた。教壇に立つことを夢見て頑張ってきた受験者や、学校で教育を受ける子どもたちへの裏切り行為であり許し難い。
疑惑はさらに広がる様相をみせている。県教委からOBや県議会議員などに事前に特定の受験者の合否が知らされていた。口利きの疑いも浮上している。さらに校長や教頭への昇進試験でも金品が動いたとして、県警が立件を目指す構えだ。内部でもたれ合い、有力者の介入にもろい教育界の姿が浮き彫りになった。
共同通信の調べによると、全国で少なくとも十九道県と四政令市の教委が、特定の受験者の合否を県議や国会議員秘書らに個別に知らせていたことが分かった。このうち岡山、広島両県教委など十道県と二政令市の教委は正式な発表や受験者へ通知が届く前の事前連絡だった。「口利きや金品の授受などはない」というが、緩みが不正につながっては大変だ。疑いを招きかねない行為は慎むことだ。
教育界の信頼回復へ、教員採用試験の改善が急がれる。受験者に成績や正答、選考基準を開示するなど透明性を高めるとともに、複数の担当者によるチェック体制など不正が入り込む余地のないよう、徹底的にメスを入れなければならない。
二〇一〇年一月に社会保険庁の年金部門を引き継いで発足する「日本年金機構」について政府、与党は懲戒処分歴のある社保庁職員は全員採用しないことを決めた。基本計画に盛り込み二十九日にも閣議決定する。
新機構は国が管理などに関与する「公法人」だが、職員の身分は公務員ではなくなる。政府案では、現在約一万三千人いる社保庁の年金部門の正規職員を機構発足時には一万八百八十人に削減する。外部からの採用は千人で、九割方が社保庁からの移行組となる。
政府と自民党の間で物議をかもしたのが、年金記録ののぞき見などで懲戒処分を受けた職員八百六十七人の処遇である。当初、懲戒の中で最も軽い「戒告」については、有期雇用の道を残していた。これに対して自民党内から「国民の理解が得られない」など批判が相次ぎ、一律不採用で決着した。
背景には、昨年の参院選で民主党に大敗した原因が社保庁にあるとの憤りや、次期衆院選をにらんで改革姿勢を示したい狙いがうかがえる。給与を受けながら無許可で労働組合活動をする「ヤミ専従」の処分も出るため不採用者はさらに増える。
国民の不信を買った年金記録問題は社保庁のずさんな業務や倫理観の欠如、ぬるま湯体質などがもたらした。その傷は大きい。約五千万件の「宙に浮いた」年金記録にしても統合の処理に至ったのはわずか12%。そればかりか、六月には厚生年金の入力ミスも新たに分かるなどゴールは不透明だ。
体質の改善は懲戒処分職員の排除や人員削減だけでは果たせまい。国民の信頼が得られる組織へ向けて、職員の使命感を高め、サービスの向上に一丸となって取り組む体制づくりが欠かせない。
(2008年7月28日掲載)