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08北京五輪

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週刊北京五輪:オリンピック公園 工事にかかわる市民は

 <開幕まであと112日>

 ◇立ち退きでも「不満なし」--組織委、厚遇ぶりアピール

 北京五輪のメーンスタジアムとなる国家体育場が、ほぼ完成した。国家体育場を中心に多くの競技会場が集まる市街地北部の「奥林匹克(オリンピック)公園」一帯は、かつて農村だった地域。多くの住民の立ち退き転居や、大規模な工事を経て姿を変えた。立ち退きや建設工事にかかわった人々を取材した。【石井朗生】

 ★従うのは当然

 奥林匹克公園や、その北に隣接する森林公園は、合わせて18・8平方キロ。かつての住民約5000人は北京市から立ち退きを求められ、04年までに市が用意した近隣の団地などに転居した。

 周淑英さん(65)は04年に、奥林匹克公園の約3キロ西にある林萃西里の団地に移った。約80平方メートルの1LDKに夫の姜張海さん(68)と2人暮らし。2人の子供の家族も同じ団地内に住む。

 立ち退き前は農業を営み、古い一戸建てに家族一緒に住んでいた。前の家は電気やガスの供給も不安定だったが、新居は最新の設備が整い、冷暖房もある。市から補償や免税措置があり、購入価格も市場価格より安かったという。周さん夫妻は「立ち退きがなければこんな家は買えない。しかも五輪の役に立てたのだから誇り」と喜ぶ。農業を引退した今は、日当たりのいいリビングでのんびり過ごすのが楽しみ。五輪関連の行事にも積極的に参加する。

 五輪開催が決まった01年当時は、立ち退き反対運動もあったという。だが、周さんと同じ団地に移った主婦の楊利環さん(52)は「国の施策には従うのは当然。今は不満の声は聞かない」と言う。

 ★農民工4万人

 五輪関連施設の建設工事は、農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者が支える。中国全土から集まり、その数は約4万人とも言われる。北京五輪組織委員会によると、五輪関連の現場で働く農民工の仕事や生活の環境は、他の現場のモデルになる水準を目指したという。夜間学校、映画室、パソコン室、診療所なども完備し無料で利用できる。優秀な農民工には旧正月に、帰省用の航空券も贈られた。

 国家水泳センターで安全管理を担当してきた黒竜江省出身の王石明さん(51)は「多くの労働者の中で、五輪の施設で働く機会を得たのは幸運。今まで働いた現場より待遇もいい」。国家体育場で作業班の班長を担う江蘇省出身の〓樹森さん(57)は「施設が徐々にできて、国家の大事業を迎えるのはうれしい」と喜ぶ。今年の旧正月には航空券を贈られた。「家族も私が五輪の仕事をしているのを喜んでいるからがんばりたい」と奮起する。

 施設が完成すれば皆、別の仕事場に移る。プレスセンター建設を担当する湖北省出身の斉加新さん(43)は「次は上海かな。でも今ほど条件が良くてやりがいのある仕事はないだろう」と、五輪関連の仕事が終わるのを少し残念がった。

 ★本音は

 立ち退き住民や農民工への取材は、五輪組織委が設定した取材日に行った。指定された場所で、選ばれた住民や農民工に話を聞く形式。組織委は市民らの協力ぶりをアピールするため、こうした機会を随時設けている。

 3月26日の農民工取材の際は、取材に呼ばれていない農民工が十数人、報道陣の様子を遠巻きに見ていた。彼らは記者に「オレたちの給料は1日に60元(約870円)。給料をもらえていないヤツもいる」と訴えた。しかし、組織委関係者に見つかるとすぐ追い払われた。立ち退き住民の周淑英さん宅にも、組織委に指定された3月27日の半月後に再訪すると、「近所の人」と称する人が同席。会話を録音・録画された。

 取材に応じてくれた市民や農民工は「模範解答」ばかり言ったわけではなさそうだった。だが「すべて本音なのかな」という思いもわかないではない。

毎日新聞 2008年4月18日 東京朝刊

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