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従業員控室の天井裏に仕掛けられた小型カメラ=北九州市若松区
会社側が従業員控室に隠しカメラを仕掛け、反抗的な動きを監視する――。北九州市若松区の鉄工所で労使紛争が高じ、異様な事態が起きている。労働組合が結成された翌日、会社側は、廃業と1カ月後の全従業員30人の解雇を通告した。隠しカメラについて会社側は「怠業行為を確認するため」と説明するが、組合側は「盗撮は人権侵害」と強く反発。会社の解散後も対立が続いている。
会社は香月工業所(香月秀一社長=現・代表清算人)で6月9日に解散した。組合員ら従業員の過半数は工場横の従業員控室で、廃業と解雇の撤回を求め交代で泊まり込みを続けている。
組合側によると、労使交渉が難航して同3日夜、正社員10人で労組を結成。翌4日朝、会社側に通知したが、直後に会社の弁護士から廃業と工場閉鎖、7月4日付の全員解雇を通告された。解雇日までの給与は支払われたが、再就職の見通しは不明という。
会社側によると、社長は労使交渉の心労で倒れ、会長も高齢で後継者がいないことなどから、春ごろから廃業・解散を検討。5月中旬から従業員が怠業(争議)行為に入り、製品の納期遅れが続いたのを機に決断したという。
組合側は6月4日から抗議の泊まり込みに入った。その際、従業員の休憩や食事、話し合いなどに使っていた控室の天井裏と、工場の梁(はり)に設置された小型カメラを発見。控室中央の天井ボードには直径1〜2ミリの穴が開けられ、ボードの裏に1.8センチ四方のカメラが粘着テープで固定されていた。発見時も録画中だったという。
会社側は、怠業行為の事実を確認するため5月中旬以降に設置したと認めている。
労組の鷺田(さぎた)建二分会長は「盗撮は人権侵害。『ここまでやるか』という思いだ」と非難。組合員が泊まり込む建物の明け渡しを求めて会社側が提訴した民事裁判の組合側代理人、服部弘昭弁護士(九州労働弁護団会長)は「盗撮は不当労働行為とプライバシー侵害に当たる。解雇回避の努力も説明も尽くされず、解雇権の乱用だ」と訴える。
これに対し会社側代理人の加藤哲夫弁護士は「カメラ設置は施設管理権の範囲内。廃業・解散は株主(経営陣)の専権だから事前説明の義務はない。解雇の件は1カ月前から説明会を重ねている」と反論している。(吉田耕一)