「原油高時代の省エネ対策として、みんなで自転車通勤をしよう」
柳仁村(ユインチョン)文化体育観光相がこう呼びかけ、今月10日から自転車通勤を始めた。政府や公共機関が車のナンバー末尾による使用日の制限制度を導入したのに伴い、閣僚も専用公用車を使えない日が生じたのがきっかけ。
高級車所有がステータスとなりがちな韓国で、「閣僚の自転車通勤」は権威主義的価値がひっくり返るニュース。しかも俳優出身の柳氏は、格好もサマになっている。スポーツバイクに青い手袋、短パンで走る姿は、ポスターから出てきたみたいだ。乗っていた自転車が20万円近い「高級車」だったと判明し、インターネット掲示板で「やっぱり金持ち」と批判も出たが、自転車愛好家から「自転車はダサいというイメージを一新した」と評価する声が相次ぎ、論争は沈静化した。
韓国では自転車で通勤する人たちを「自出族(チャチュルジョク)」と呼び、03年から同好会活動が活発化した。現在、会員は15万人超。原油高を受け、ロッテのネットショッピングでは5月の自転車販売額が前年比の5倍にのぼるほど、自出族は急増しつつある。
私も自転車通勤をしようと赴任の時、日本から買い物カゴ付きの「ママチャリ」を持ってきたが、何度か挑戦して挫折した。自転車は車道を走ることになっているが、車は自転車に配慮なく走るので結構怖い。仕方なく歩道をゆっくり走ろうとしたが、歩行者はよけてくれないし、道路がデコボコだし、結局は自転車を引いて歩く時間がほとんど。日本留学経験者からも「自転車は危ない」と助言された。
ただ、今回の自出族ブームは、省エネ対策に動員された公務員も加わっているので、道路事情が変わる可能性がある。柳氏は自転車通勤初日「ソウル市内には、自転車走行が危ない場所もあった」と指摘した。地方自治体やソウル市内の区役所では、自転車専用道路整備の議論がさかんだ。大田(テジョン)市(韓国中西部)は最近、パリで昨年から始まった大規模な自転車レンタル制「ベリブ」を模範に、3年後に2万台の自転車レンタルを始めると発表。「自転車に優しい街づくり」を目指す動きも出ている。
自転車通勤を促す役所では、服装もカジュアルに変わった。原油高は韓国経済を苦しめているが、風通しのいい職場の雰囲気をつくる追い風になるかもしれない。(ソウル支局)
毎日新聞 2008年7月28日 東京夕刊