ホーム > マネー・金融 > 橘玲インタビュー 投資の可能性と不可能性

橘玲インタビュー 投資の可能性と不可能性

2008年07月28日

橘玲インタビュー 投資の可能性と不可能性

つまらないけど正しい投資

――サブプライム問題で市場の動揺が続いています。こんなときに投資するのは危険なのではないですか。

 投資とはリスクから利益を得る行為ですから、そもそもすべての投資は危険です。そのうえ、当たり前の話ですが、安いときに買わなければ投資の果実は手に入りません。その意味で、相場の下落は格好の投資機会を提供してくれます。

――そうは言っても、いつか暴落しそうで怖いのですが。

 暴落すればもっと安く株が買えますから、さらにチャンスは広がります。

――そんなに楽観的でいいのですか。

 10年単位のスパンでいずれ相場が回復するのなら、その間にどれだけ投資単価を下げられたかでパフォーマンスは決まります。リタイア直前で株価が暴落したならショックかも知れませんが、大半の長期投資家にとって、強気相場が長く続くよりも、株価の下落はずっと喜ばしい事態でしょう。

――喜べといわれても、釈然としないのですが。

 ETFを使って世界市場をまるごと保有するのは、不可知論と楽観主義の投資法です。主義主張の異なる人にまで勧めようとは思いません。地球温暖化や環境破壊でいずれ世界が滅びるのなら、投資などなんの意味もありません。それでも知恵と努力で市場を打ち破りたいのなら、思う存分やってみればいいでしょう。ただし、もしあなたが家族と過ごす時間を増やしたり、仕事や趣味に打ち込みたいと思えば、時間コストを含めた総合的なパフォーマンスで、世界市場へのインデックス投資を上回る投資法は存在しないと思います。

――具体的にはどうすればいいのですか?

 毎月1回、決めた額だけETFを買う。それだけです。投資に費やす時間は5分程度で、まったくの初心者でも簡単にでき、プライベートバンクの一任勘定を上回る運用成績が達成できます。

――本当にそんなうまくいくのですか?

 思想的に正しい、というのはそういうことです。それでもこの投資法が少数派なのは、たぶん、正しすぎて面白くないからでしょう。

 多くの投資家は恐らく「自分だけが儲けたい」と思っています。だから、株式の個別銘柄や自分だけの売買法の研究に熱心です。しかし確率としては、橘さんの言うように世界中のインデックスに長期で投資するほうが、間違いなく利益を最大化し損失を最小化できるでしょう。それがつまらないのは別問題です。投資は面白いからやるのではなく、必要だからやるものなのでしょう。


橘玲プロフィール
作家。1959年生まれ。早稲田大学卒。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融情報小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)は30万部の大ベストセラーになる。を発表。著書に『得する生活』『雨の降る日曜は幸福について考えよう』『永遠の旅行者』(山本周五郎賞候補)『マネーロンダリング入門』(以上、幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(以上、文藝春秋)、翻訳書に『不道徳教育』(W.ブロック著 講談社)がある。

関連キーワード:資産運用 株式投資 読書

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

おすすめ関連記事

special topics

ページの上に戻る

強力コラム執筆陣が時代を斬る!

JavascriptをONにしてください

話題の記事・注目の記事

スクエア画像
野口悠紀雄が探る デジタル「超」けもの道
胡錦濤のわずか15分の1? 福田首相に対するアメリカ人の関心度
スクエア画像
竹中平蔵・上田晋也のニッポンの作り方
大学改革で日本は強くなる!
スクエア画像
Close-Up Enterprise
日雇い派遣禁止の議論に隠れる製造派遣とグレーゾーン問題
スクエア画像
経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”
孫社長を窮地に追い込むソフトバンクのセキュリティ対策リスク
スクエア画像
News&Analysis
ヘッジファンドが引き起こす 「日経平均1万円割れ」の恐怖
スクエア画像
China Report 中国は今
北京五輪観戦ツアーが予想外の不人気 大地震の影響だけでない本当の理由
スクエア画像
政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
官僚の「御用聞き外交」がそのまま国の外交政策となる日本の悲劇
スクエア画像
inside Enterprise
急拡大するイスラム教徒向け保険に多くの企業が注目
スクエア画像
弁護士・永沢徹 M&A時代の読解力
「不動産バブル崩壊」で相次ぐ倒産。 “物件ありき”から“体力勝負”へ
スクエア画像
働く男女の「取扱説明書」
こんな部下に注意!「自宅で昼寝する営業マン」と「サボれないE型女」
スクエア画像
週刊ダイヤモンド ITBizNews
ダビング10で市場縮小の恐れ コンテンツ産業の構造改革が急務
スクエア画像
World Voiceプレミアム
原油高の隠れた犯人は需要を肥大化させる中国と産油国のガソリン安
スクエア画像
辻広雅文 プリズム+one
米国の金融産業は衰退し、潜在成長率低下という本質的危機を迎える