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県立病院改革待ったなし 山梨、不透明な赤字解消策…
巨額の赤字を抱える山梨県の基幹病院の経営形態をどう変えるのかに、県内で注目が集まっている。県は専門家の検討結果を受け、現在は県組織の一つとなっている県立中央、北の2病院を、独立した法人の理事長が柔軟に職員を雇用できるようにする「一般地方独立行政法人」(一般独法)に変える方針を示唆。6月県議会ではこの問題が議論の中心となったが、野党県議だけでなく与党からも異論が相次ぎ、特別委員会を設けて議論が続けられることになった。経営形態をめぐる議論を追った。(花岡文也)
「県がなぜ一般独法を目指すのか、目的やメリットがはっきりしない」。6月県議会の代表・一般質問や常任委員会で、自民3会派のうちの1会派を除く与野党県議から、こうした意見が次々と上がった。
県側によると、県立2病院の収支は平成13年度まで毎年、やや黒字だったが、中央病院の新病棟建設に伴う減価償却が始まった14年度から赤字に転落、19年度までの累積は約 136億円に達した。ただ県議側から「経営自体は悪化していない」と反論が相次いだ。
17日の特別委員会でも、形態変更の必要性を問われた県側は「総務省が公立病院改革を求めたガイドラインに沿っている」「巨額の赤字累積がある」と概略を説明するものの、具体的なメリットや赤字解消策は示されず、県議側の反論が目立った。
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この議論は、県が検討を依頼した「県立病院経営形態検討委員会」(座長・今井信吾前三井住友海上きらめき生命社長)が3月に、「一般独法が望ましい」とする報告書を横内正明知事に提出したことに始まる。
同委員会では、地方公営企業法の財務規定など一部を適用している現在の県立2病院を、どのような形態に変えるのが望ましいのか分析。(1)予算や人事権も事業管理者に与えるが、職員は公務員のままの「地方公営企業法の全部適用」(2)県 100%出資の法人の理事長を知事が任命し、3−5年の中期目標を立てさせ経営を委ねる「一般独法」(3)管理運営を外部委託し、民間のノウハウを幅広く活用する「指定管理者制度」−の3制度を比較した。
後者になるに従って県の関与が弱まる一方、経営の自立性や責任は大きくなる仕組みだ。委員会は、(1)は県組織のため行政改革による職員数の計画的削減が従来通り適用され、(3)は採算を優先し、救急医療や周産期医療など不採算の「政策医療」が維持されない恐れがあるなどと指摘した。
全国的には宮城県と山形県の一部病院が一般独法に移行済みで、静岡県や秋田県など4県でも移行予定。新潟県など25県が地方公営企業法の全部適用を採用し、山梨県や長野県などが同法の一部適用のままの状況だ。
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山梨県の担当部局は県議に対し、委員会報告を踏まえて一般独法がふさわしいと示し、横内正明知事も記者会見で「減価償却を除けば黒字だから良いという判断は成り立たない。たとえば一般独法になれば(県職員数の計画的削減の枠組みから外れるため)より多くの医師らを採用でき、政策医療の経費は従来同様に県が提供する」と強調した。
ただ県議側を納得させることはできす、制度が複雑なこともあって県議から何度も同じ質問が出るほか、「職員労働組合の支持を受ける県議は公務員の地位を守ろうと反対する」(ある県職員)状況もみられた。
しかし、県立中央病院の平成18年度の一般病床利用率は78.1%で、全国の 400床以上の病院平均(85.6%)や近隣の静岡総合病院(92.7%)、新潟中央病院(90.9%)を大きく下回り、改革は待ったなしの状況だ。形態変更によって現在は激務となっている医師や看護師の勤務状況を緩和できることも含め、県が県民に向かってどのようにメリットを伝えられるかが重要になってきている。