3人の裁判官と6人の裁判員
「汚いことをしやがって」。
法廷に立てば、判決を出す立場の最高裁事務局幹部が日本弁護士会連合会幹部に声を荒らげた。
二〇〇三年秋。裁判員制度の裁判官と裁判員の構成をめぐり、両者は国会議員に陳情合戦を繰り広げていた。「裁判官二人以下、裁判員は裁判官の三倍以上」を訴える日弁連。現行の裁判官三人制について「実務を担っているのは裁判長と判決を書く左陪席」と説明して回るうち、最高裁に伝わった言葉が「右陪席は居眠りをしている」。それで憤慨したのだ。
「最高裁からの陳情は前代未聞」と、前官房長官の与謝野馨は話す。「まな板の上のコイが包丁を握るのか」との批判もあった。だが、最高裁は「裁判官三人、裁判員二人」を説き続けた。
議論の当初、最高裁は「市民は裁判に参加しても評決権は与えない」との意見だった。だが、評決権が認められてしまい、背水の陣を敷かざるを得ない状況だった。
裁判員裁判の主役は国民なのか、裁判官か。相前後して、同じ議論を裁判員法案のたたき台を作る政府の検討会でも、法曹関係者十一人が戦わしていた。
裁判官が主役だとする人たちは「他の裁判と同じ裁判官三人でないと、整合性が保てない。裁判員が多いと意見がまとまらない」と主張。裁判員主役派は「素人と専門家の対等な議論を可能にするには裁判官は二人以下、裁判員は九−十一人必要」と訴えた。
どちらも譲らず結論は出ない。そこで、座長が自ら試案としてたたき台を作成。裁判官は、多くの委員が支持する「三人」と明記。裁判員は「裁判官より多く」と主張する委員が半数いたため、四人とし「五、六人もありうる」とした。
付け足しの「五、六人」。だが意外にも裁判官三人、裁判員六人で決まる。最高裁と同じ考えの自民党と、「裁判官二人、裁判員七人」を主張する連立与党の公明党が協議。「裁判官三人は譲れないが、裁判員六人でどうか」との自民案を、公明が受け入れた。
妥協の産物であろうと、三対六の構成はどちらが主役かを示しているはずだ。ところが最後の協議に関与した与謝野は「どっちでもない」と言う。
ある裁判では裁判官が議論を支配し、別の裁判では裁判員が気後れせず議論するという状況が起こるのか。検討会委員を務めた弁護士の四宮啓もうなずき、指摘した。「だからこそ、市民の意見が反映した裁判にするために、法律家の責任は重い」(文中敬称略)
-------------2008.4/27東京新聞
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