(cache) 上昇気流なごや: スポンサー

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　このテーマは、新聞社に籍を置いている者とすれば、避けて通るのが懸命なのだろうが、少し思うところもあり、書いてみる。あぁまた言い訳している、と思われる方は、読み飛ばすか、読まないでいただいて結構である。
　週刊金曜日が１月２０日号で「マスコミ最大のパトロン　トヨタの正体」という５ページの特集を組んだ。サブタイトルは「マスコミという壊れた信号機」。トヨタは１０年連続で日本一広告費を出している企業であり、マスコミは提灯記事ばかり書いて、批判ができなくなったという趣旨の内容である。
　新聞は主に広告と販売収入で成り立っている媒体なので、スポンサーにまったく気を遣わないということはない。それは認める。開き直るのかと言われるかもしれないが、商業紙としては、配慮するのは当然というか、やむを得ないところがある。
　では、悪口を全然書かないかといえば、そんなことはない。十把一絡げでマスコミはこうだ、と書かれると、ちょっと違うんじゃないかと言いたくなる。
　私が報道部門の責任者をしている毎日新聞中部本社の管内にはトヨタ自動車の本社がある。日本で最大の利益を出している企業だし、中部圏経済の元気印の象徴でもあるから、取り上げることは多い。元気な側面をとらえるなら、好意的な内容になる。
　トヨタは取材対象として話題が豊富で、興味深い企業だ。昨年３月、愛・地球博の開幕に当たり、なんでトヨタがこんなに肩入れするのだろうか、という記事を載せた。連載の１回目は「トヨタの〝見本市〟」と見出しを取った。これには社内でもいろいろ議論があった。万博はトヨタだけのものではないからだ。ただ、ひとつの断面ではある。
　トヨタが肩入れしているから万博の批判記事を書かなかったかといえば、それは違う。運営のまずさなどを何度も指摘した。ただし、批判のための批判、展望のない万博批判記事は書かないように、という指示はした。繰り返しになるが、「愛・地球博はトヨタ博だ」と書いてもいいし、実際、毎日新聞はそう書いたこともあるが、そう書くことで見えなくなるものもある。
　閉幕後、トヨタにとってこの万博が何だったかというテーマで、上中下の企画記事を連載した。これをトヨタ企画の序章とし、今年に入ってからは第一部としてトヨタと政治の関係を５回載せた。
　昨年の何月だったか、トヨタの社員が車への放火容疑で逮捕された。当日の当番デスクが私に報告しに来たので、「社名を匿名にする理由があるか」と聞いたら、「ありません」というので、そのまま載せた。社会面で３段。見出しには社名も載った。そのことでトヨタから圧力がかかったことはない。
　もうひとつ。現在、名古屋駅前に毎日新聞、トヨタ自動車、トヨタグループの東和不動産の３社で超高層の再開発ビル「ミッドランドスクエア」を建設している。週刊金曜日は「（トヨタと）メディアとの相性の良さを象徴するかのようなこのビル」と書いているが、名古屋の事情をご存知の方ならおわかりかと思うが、昭和２９（１９５４）年に名古屋駅前の一等地に毎日新聞が毎日名古屋会館を建設し、その隣に豊田ビルがあった。手を組んで再開発するのは、トヨタと新聞社でなくても、当然の選択だったと思う。
　同ビルについてはビジネスパートナーだが、毎日新聞がトヨタについていいことしか書かないということはないし、トヨタが毎日新聞に特ダネをどんどん抜かせてくれるかといえば、そんなこともない。いや、これはうちの経済担当記者の力量の問題か。
　名駅前の再開発は、今年の名古屋の最大の明るい材料である。毎日新聞の紙面には、この高層棟のサブ名称である「豊田・毎日ビルディング」がこれからも何度となく登場することになる。その点はお許しいただきたい。

isono : 2006年01月23日 11:40
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■某Ｓさんのコメント：2006年01月23日 15:23

ＪＡＬの大株主の糸山氏が、全く反対のことをお考えのようです。
年間何十億も掛けて広告を出しながら、少しのミスでも許すまいと
記事でＪＡＬを叩くのなら広告など一切やめて安全対策に回せと。
マスコミ全体が磯野さんみたいに考えられれば良いかと思いますが。

■太郎さんのコメント：2006年01月23日 15:58

いつも拝読させていただいています。京都の大学に通っている学生です。今年の４月から、新聞記者になる予定ですのでとても参考になります。

＞トヨタは１０年連続で日本一広告費を出している企業であり、マスコミは提灯記事ばかり書いて、批判ができなくなったという趣旨の内容である。

批判が少ないのは、広告費を沢山もらっているからではなくて、時代の流れに乗っていて、世間から賞賛されている企業（ときには個人）に対してはなかなか批判がしにくいからだと思います。
理由は２つ
（１）成功しているだけあって批判するネタが少ない
（２）世間で評価が高い企業などを批判するのは自社のイメージを悪くする
だと思います。

　例えば、ソニーが成功し続けていたときに、あえてソニーを批判する人はいませんでした。巷にはソニーの経営方式を絶賛する本があふれていました。でも結果的に成功し続けている間のソニーになんらかの問題があって業績不振に陥ったわけです。いまはトヨタの経営を分析し、賞賛する本が並んでいます。

　マスコミに求められる姿勢は、時代の流れに合わせるだけでなく、世間で評価の高いものをあえて疑ってみたり、逆に世間で評価の低いものの良さを探ってみたりする姿勢ではないでしょうか。

　まだまだ世間を知らない学生の予想に過ぎませんので、ご意見お聞かせください。

■磯野彰彦さんのコメント：2006年01月23日 16:01

　某Ｓさん、コメントありがとうございます。糸山氏の考え方は、広告費はマスコミを黙らせるための経費ということでしょうか。マスコミの側にも、たくさん広告費を出してくれたら、いいことばかり書いて悪口は書きませんよ、という思いがあるかもしれませんね。しかし、広告費というのは、純粋な意味での広告のための費用ということもありますよね。例えば、ＪＡＬであれば競合会社、競合路線（新幹線も含む）よりうちのほうがずっと便利だしサービスもいいから、どうぞご利用ください、というような。広告費が、よいしょ代というか、口止め料というか、そういうふうに考えるのは双方にとって不幸であるように私は思います。
　どっちにしたって批判はとめられないのだから、その分を安全対策に回したほうがいい、という考え方は、それはそれで面白いとは思いますが。

■磯野彰彦さんのコメント：2006年01月23日 16:36

　太郎さん、コメントありがとうございます。そうですか、４月から新聞記者ですか。大変だと思いますが、初心を忘れずに、それから、できれば初志を貫徹するように、頑張ってください。
　ところで、その企業のニュースについて、どこの部署が書くかという問題もありますよね。例えば、銀行員が事件を起こせば、警察の発表に基づいて、社会部の記者が書きます。一般的に企業ニュースを書くのは経済部で、万博になると主に社会部です。事件や事故、不祥事があった時に、その内容を伏せるとか、遠慮して書くということになると、一線の記者の判断ではなくて、編集幹部の判断でしょうね。
　で、太郎さんが挙げた二つ目の理由。「世間で評価が高い企業などを批判するのは自社のイメージを悪くする」というのは、うーん、実際問題としてどうでしょうか。つまり、トヨタはすごい企業だと多くの人が思っている時に、毎日新聞の経済記者がトヨタにも死角はある、そんなにすごい企業ではない、と書いたら、毎日新聞のイメージが悪くなるだろうか、ということです。少し違うように思います。
　「マスコミに求められる姿勢は、時代の流れに合わせるだけでなく、世間で評価の高いものをあえて疑ってみたり、逆に世間で評価の低いものの良さを探ってみたりする姿勢ではないでしょうか」という指摘は、それだけが求められているとは思いませんが、時代に迎合しない、世間の評価にたやすく同調しない、という姿勢は、大切だろうと思います。

■某Ｓさんのコメント：2006年01月23日 21:08

たぶん、糸山氏は叱咤激励するのは歓迎していると思います。