交互に座った日韓の高校生はあちこちで記念撮影をしていた=22日、秋田県横手市の横手清陵学院高校、木瀬公二撮影
日韓の草の根交流が揺れている。日本政府が中学校の学習指導要領の解説書に初めて竹島領有問題を盛り込んだことに韓国側が反発し、訪問の中止や延期を求めているためだ。影響を一番受けたのは次世代を担う子どもたち。「こんなときこそ」と実施に踏み切る動きもある。
「独島(トクト)(竹島)問題を発端とする最近の日韓関係は遺憾だ」。政府による解説書公表から間もなく、東京都杉並区には友好関係にあるソウル市瑞草(ソチョ)区から中高生交流会の「中断」の連絡が入った。31日から4日間の日程で約20人が杉並を訪れる予定だった。5年前に始まり、島根県の「竹島の日」条例などで揺れた05年夏でも中止には至らなかった。
瑞草区庁の担当課長は「今回は日本政府の動きであり、韓国内の反感はより強い。区民、国民感情を考えると交流事業ができる状況ではない」と説明する。
青森県黒石市では、姉妹都市の永川(ヨンチョン)市長が予定していた黒石訪問を中止。8月6日からの黒石市の高校生の永川訪問も取りやめに。永川市の担当者は「独島は永川市のある慶尚北道に属している。独島への市民感情はほかの地域よりも敏感だ」と話した。
新潟県新発田市では、韓国・議政府市と交互に開いてきた小中学生の親善スポーツ交流大会などが中止された。新発田市体育協会の大沼淳会長は「子どもたちの交流が政治の世界に巻き込まれた。楽しみにしてきた子どもたちが一番かわいそう」。
経済活動にも影響が出ている。茨城県の橋本昌知事は15日、ソウルでアシアナ航空幹部や柳明桓(ユ・ミョンファン)・外交通商相と相次いで会談し、10年3月に開港予定の茨城空港への定期便就航をめぐる大詰めの折衝に臨んだ。だが、同社幹部、外相とも「独島問題の解決が先決」との趣旨の回答をし、就航表明は先送りされた。県関係者は「タイミングが悪かったとしか言いようがない」。
一方、秋田県横手市の横手清陵学院高校に22日、韓国のジョンバル高校の生徒23人が訪れた。両校生は「こんな時こそ交流が重要」とばかりに片言の両国語で話しながら、一緒にカレーライスを作るなどして交流を深めた。
日本留学を希望している2年生のカン・クホン君(18)は「もっともっと民間交流をして仲良くなった方がいい」。2年生の櫛田花夏さん(17)は「国家の問題を高校まで持ち込まないでほしい」。
宮城県涌谷(わくや)町には25日まで5日間の日程で、扶餘(プヨ)郡の林川初等学校の児童と教員19人が訪問。05年度、竹島問題による両国関係の悪化を理由にホームステイが取りやめになり、町側は中止を覚悟していた。来日した崔鴻ヨン(チェ・ホンヨン、ヨンは金へんに庸)校長は「将来ある子どもたちの交流が大事」と話したという。
川崎市などと富川(プチョン)市の夏恒例の高校生交流も予定通り実施される運びだ。00年から続く行事で、今年の交流会の議題は「竹島」。交流を指導してきた神奈川県立麻生高(川崎市)の風巻浩教諭は「真剣な議論があってこそ良好な関係を築ける。竹島問題が負の連鎖にならないよう、草の根レベルの交流でネットワークを広げたい」と願う。
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〈竹島問題〉 日本海に浮かぶ0.21平方キロメートルの小島と岩礁で、日韓がともに「固有の領土」と主張している。日本は1905年、閣議決定を受けて島根県知事が県所属とする告示を出したことを根拠にしている。一方、韓国は、日本が同じ年に外交権を奪い、5年後に併合した経緯から「侵略で最初に奪い取った」(盧武鉉(ノ・ムヒョン)・前大統領)と主張、「領土問題など存在しない」との立場だ。52年、当時の李承晩(イ・スンマン)大統領が竹島を取り込む形で公海上に線引きし、その後も実効支配。65年の日韓国交正常化でも事実上棚上げされた。今回の日本政府の解説書記述に韓国は強く反発し、駐日大使を引きあげている。