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社説

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堀江被告実刑―断罪が導く地道な時代

 かつての「時代の寵児(ちょうじ)」が再び断罪された。元ライブドア社長の堀江貴文被告に対する控訴審で、東京高裁は一審判決を支持し、懲役2年6カ月の実刑判決を言い渡した。

 堀江被告は、自らに不利な元部下の証言内容は信用できないなどと反論し、無罪を主張していた。裁判長はこれらをことごとく退け、「最高責任者の被告の指示・了承がなければ犯行はありえない」「犯行について反省の情はうかがわれない」と厳しく断じた。

 堀江被告はすぐ上告し、最終判断は最高裁へゆだねられた。

 それにしても、わずか2年半前だった「ホリエモン逮捕」の衝撃が、ずいぶん昔の出来事のように感じられる。堀江被告が控訴審に一度も出廷せず、メディアにも姿を見せないせいもあるが、株式市場の状態が当時からは様変わりしたのが原因だ。

 プロ野球に放送局。ライブドアは派手な企業合併・買収(M&A)を仕掛けて自社の株価をつり上げ、ふくらんだ時価総額をテコに次のM&Aへ乗り出す。肝心の事業内容はイメージばかりで、実態は買収ファンドに近い。株価引き上げのため利益を不正に大きく見せたのが今回の事件だ。

 こんなマネーゲームができたのは、バブル後の長期不況から抜け出す道をそんな手法に夢見た一般投資家が、同調して株を買ったからである。

 だが事件をきっかけに、一時の熱狂は急速にしぼんだ。続いて摘発された村上ファンド事件では「もの言う株主」にも懐疑が広がった。その後も外国系ファンドによるM&Aや株主提案の試みが続いているが、一般株主の反応は打って変わり冷静だ。

 派手なM&Aに頼らず、長い目で会社を発展させるにはどんな戦略が大事なのか、地道に見きわめようとしているようにみえる。事件の高い授業料が生きているといえよう。

 とはいえ課題は多い。株主利益の偏重に陥らずに、社員や顧客や社会のあいだでどうバランスさせていくのか。他方、1500兆円の個人金融資産を日本経済の発展に回す役割を、株式市場はまだ果たせていない。

 事件を機にIT業界では世代交代が進み、堀江被告よりも若い70年代半ば以降に生まれた社長たちが活躍している。たとえば、ネット上でコミュニティーを提供しているミクシィ。事件後に上場したが、M&Aには慎重で、長期的な成功を目指して地味な技術開発に根気よく取り組んでいる。

 あの教訓を踏まえ、若い経営者たちは「苦境に陥った時に会社を守ってくれるのは何か」と常に考えているようだ。頼みになるのは顧客や従業員、そして社会からの支持だ。事業を通じて社会にどう貢献するか。ここに心を砕く経営者が増えるよう期待したい。

太陽光発電―「創エネ」に早く行動を

 地球温暖化を食い止めるために、太陽光発電の普及に向けて大胆に踏み出すべき時がきた。

 福田首相が太陽光発電を2020年までに今の10倍へ、30年には40倍へと大幅に増やす方針を表明した。研究開発に力を入れる一方、思い切った支援策や新たな料金システムについても検討すべきだとしている。

 日本は太陽光発電の先頭走者として世界を引っ張ってきたが、最近はかげりが見えている。設置費への政府の補助金が財政難から撤廃された結果、住宅用の太陽光発電の年間設置件数が3年前から減少に転じ、導入量世界一の座をドイツに奪われてしまった。

 補助金を撤廃したのは政策の失敗だった。早く新しい普及策をまとめて実施に移したい。

 1位になったドイツでは、電力会社以外の企業や家庭がつくった新エネルギーによる電気は、20年にわたって固定価格ですべて買い取ることを、電力会社に義務づけている。

 太陽光発電の場合、買い取り価格は日本の約3倍。その費用は、電気料金に上乗せして社会全体で負担する。円換算すると、平均的な家庭の電気代は月9千円で、そのうち約500円が新エネルギーへの負担だという。

 太陽光発電が急速に伸びたのは、こうした強力な政策があるからだ。これを見習って、欧州や韓国など約20カ国がこの制度を取り入れた。

 日本でも電力会社には、太陽光や風力、バイオマスなどの新エネルギーを利用する義務がある。だがそれは一定量までであり、自社で発電するか、ほかから新エネの電気を買うかは電力会社の自由だ。また、買い取り価格は通常料金とほぼ同水準なので、家庭での負担は月6300円の電気代のうち、わずか30円程度にとどまっている。

 政府は新エネの利用義務量を年々増やしてはいるが、6年後でも総発電量の1.63%にしかならない。太陽光の利用義務量の上積みなど、制度を思い切って見直す必要がある。

 新エネルギー発電全体の普及に弾みをつけるには、ドイツのような制度へ移行することも検討したらどうか。国民の環境意識は急速に高まっている。発電費用を社会全体で薄く広く負担することについても、納得を得られるのではないか。

 家庭や企業に新設備の導入を促す早道は、電気が高めに売れて投資を早く回収できる仕組みを整えることだ。そこに、設備の導入にあたって政府の補助金や税制、低利融資を組み合わせる。普及が広がり技術開発も進めば機器も安くなる。様々な手法を総動員しなければ、「30年に40倍へ」という目標はとても達成できない。

 省エネとともに、新エネルギーによる「創エネ」に取り組みたい。

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