【北京・浦松丈二】中国新疆ウイグル自治区の独立を求める「トルキスタン・イスラム党(TIP)」を名乗る組織が雲南省昆明市で21日に発生したバス連続爆破事件などの犯行を認め、五輪テロを予告する声明を出したことで、来月8日に開会する北京五輪へのテロの脅威が高まった。26日の新華社通信によると、地元当局者はテロとの関係を否定しているが、北京五輪関係者がこれまで以上に強い心理的な圧力にさらされるのは確実だ。
「この種の刑事犯罪は各国、各都市で起きている。公共の場やバスの安全措置を講じたので関係者の協力をお願いしたい」。北京五輪組織委員会の劉紹武・安保部長は事件直後の23日に開いた記者会見で、警備強化への協力を訴えた。
しかし、北京では25日、五輪競技チケットの販売窓口に押し寄せた市民と警察官がもみあいになるなど警備をめぐるトラブルが相次ぎ、これ以上の警備強化は五輪運営に影響しかねない状況だ。
北京の外交関係者によると、中国当局は国際テロ組織に関する情報収集を強化するため、28日から各国当局との治安・警備情報の意見交換を活発化させることにしている。
中国当局は「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)が五輪テロを計画している」(馬振川・北京市公安局長)と最も警戒してきた。声明を出したTIPはETIMと同一組織の可能性が高いとみられている。
TIPの声明は昆明、上海での犯行を認めた上で「これまでに使ったことがない戦術で中国の中心都市攻撃を試みる」と北京でのテロを予告しており、中国当局は国の威信をかけたテロ警戒を敷くことになりそうだ。
【上海・鈴木玲子】犯行声明は、地方の治安対策の手薄さを当局に突きつけた。少数民族問題を抱える中国で、地方のテロ封じ込めが極めて困難であることを露呈している。
雲南省は少数民族が最も多く56民族のうち52民族が暮らす。省人口約4200万人のうち少数民族が4割近くを占める。北西部をチベット自治区に接し、南部はミャンマー、ラオスと国境を接する。ミャンマー側の国境付近にはウイグル族の村も点在する。景勝地を抱える昆明には外国人が多く訪れ、高地を利用した五輪出場選手の訓練基地もある。
昆明市当局は事件後の23日、事件への関与が疑われる乗客が持っていたと見られる手提げ袋と同じ型の写真を公開。情報提供者への報奨金額を引き上げるなど、五輪前の早期解決に躍起だ。しかし、大きな進展は見えず、捜査の遅れは否めない。
一方、五輪開催都市もテロの恐怖にさらされている。声明では5月5日に上海市内で起こった路線バス爆発も「トルキスタン・イスラム党(TIP)」志願者による犯行だと主張。爆発では3人が死亡、12人が負傷した。
ただ、新華社通信によると声明後、犯行が指摘された昆明、上海の公安当局は26日、いずれも「テロ攻撃ではない」と否定した。また声明では17日に浙江省温州、広東省広州でも爆破テロを起こしたと主張しているが、地元当局はいずれも認めてはいない。
しかし上海では、五輪開催中に市内のサッカー競技場を襲撃することを計画したテログループも摘発された。公安当局は「テロの脅威は依然存在する」と警戒を強めている。
毎日新聞 2008年7月27日 東京朝刊