2006年9月15日(金)「しんぶん赤旗」
これがトヨタの実態だ
日本共産党調査で判明
史上空前の利益をあげながら、急増するリコール(回収・無償修理)や関連部品メーカーによる「偽装請負」などの問題が続発―トヨタ自動車(渡辺捷昭社長、本社・愛知県豊田市)で、いったい何が起きているのでしょうか。日本共産党調査団(団長・佐々木憲昭衆院議員)がおこなった六、七日の調査から浮かび上がった問題点をリポートします。(吉川方人)
社員
開発期間も納期も短縮
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(写真)日本共産党トヨタ調査団(右から)八田ひろ子前参院議員、塩川鉄也、高橋千鶴子、佐々木憲昭の各衆院議員=7日、愛知県豊田市、トヨタ堤工場 |
「トヨタはコンピューター上だけで設計して実際の試験を一回だけにすることを目指している。しかし、ものづくりはそんなに簡単ではない」
トヨタの自動車の部品を設計する技術者はいいます。
トヨタは自動車の開発期間を、一九九〇年代の約四年から二年に短縮。部品の製造現場では、デザインができて三カ月ほどで製品を完成させなければなりません。そのしわ寄せは、いっそうの長時間過密労働や自動車の安全性をおびやかすリコールの問題として現れています。
設計上の不備増加
トヨタは、リコール数の増加は部品の共通化によるもので、安全性の確保はきちんとしているといいますが、調査では安全性にたいする多くの不安の声があがりました。
「部品の強度が足りない」「実際に作ると他の部品と合わない」「製造のための金型が届いてからの設計変更が増えている」。リコールにならなくても設計上の不備が増加しています。
設計が遅れても納品の期日は変わりません。
トヨタ本社の開発部門を担う「テクニカルセンター」は、深夜となっても、ほとんどの部屋の明かりが消えません。トヨタの開発部門は正社員一万人にたいし、常時、部品メーカーなど他社からの技術者二千人が「応援」。そのうち派遣労働者も千四百人を数えます。
トヨタ自動車のリコール件数は、二〇〇一年の四件四万五千台から、二〇〇五年には、十四件百九十二万七千台に急増しています。下請けは「リコールにからんだら会社がとぶ(倒産する)」という緊張を強いられています。リコールと関係なくとも不良品が一つでも出たら、良品が順調に届くまで自動車製造工場に常駐しなければならず、「一回不良品を出したらその部品は永遠に赤字」だといいます。
下請け
「原価削れ」“定期便”で
トヨタ自動車は、三年間で原価を三割削減する「原価低減運動」をすすめています。下請けは原価削減要求を「定期便」とよびます。
「単価はほとんどトヨタの言い値で決まります。すべての原価を削減しろといわれ、原料費が上がれば人件費を削るしかない」と部品メーカーの経営者はいいます。
ある下請け工場は、売り上げが倍でも、単価は三割減。「売り上げが上がっても、どうしてこんなにお金がないかと思う」と経営者はいいます。ほかの工場でも六百億円売り上げても、利益は十億円になりません。
人件費の削減へ
こうした構造が、「偽装請負」や外国人労働者の不法就労を使った人件費削減への欲求となっています。ブラジルからの労働者が生産ラインの半分を占めていた工場もあり、中国やベトナムからの研修生、実習生の労働がなければ、量が増えた生産ができないという工場もあります。工場の機械には、中国語、ベトナム語で注意書きが張られていました。
トヨタ本社は、日本共産党調査団との懇談で、偽装請負の問題にたいし、「取引先に法令順守をお願いしている」といいました。その一方で、「一次下請けだけで千社以上ある。二次下請けより先は、一次下請けから伝えてもらう」とのべ、トヨタ生産方式やコスト削減を要求するトヨタには社会的責任はないという立場です。
厳しいコスト削減要求は安全性の問題もひきおこします。ある技術者は「コスト削減で(材料の強度に余裕をもたせる)安全係数を5%から2%に削っている」といいます。品質にばらつきがあり安全性で劣る韓国製の鋼材を使わざるをえない状況もあります。以前は実際の製品を使って一時間に一回していた検査を、月に一回にしているという工場もあります。
土日なく残業も
ある下請けの製造現場は、平均残業時間月六十時間。これは、この十数年変わらず、年間では七百二十時間。零細下請けにも、「明日までに仕上げてくれ」という無理な要求がまかりとおり、土、日曜日にも働かざるをえない状況です。
トヨタ自動車は、残業時間を年三百六十時間にすることを目標にしていますが、それを大幅に上回っています。本社でも三六協定(労資で決める残業時間の上限)は、以前と変わらず製造業で年六百時間、それ以外の部門で年七百二十時間。ピークより残業は減ったものの、開発などの部門や下請けでの長時間労働は改善されていません。
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労働基準監督官 豊田に5人だけ
愛知県では労働者派遣事業所が〇五年度は前年比34・9%増と急増しています。「偽装請負」など労働者派遣法や職業安定法に違反をしていたのは、愛知労働局が調査した事業所のうち、派遣事業所で88・8%(定期指導分除く)、請負事業所で84・0%となっており、きわめて悪質です。
ところが、豊田市にある労働基準監督署には、企業への立ち入り調査や是正措置をとらせることのできる労働基準監督官が署長を含めわずか五人です。
違法な労働条件を是正するための監督行政の充実とともに、トヨタ自身が、労働条件の改善や自動車の安全性を確保するための社会的責任を果たすことが必要です。