◎青いチューリップ 「世界初」の夢へ着実な一歩
自然界に存在しない青いチューリップの開発へ向け、富山県農林水産総合技術センター
の農業バイオセンターが細胞を青色にする分子メカニズム解明に成功したことは、「世界初」の夢に近づく着実な一歩と言える。
サントリーが初めて開発して来年の発売が決まった青いバラと同様、青色チューリップ
も実現は極めて困難とされ、未知なる色彩を追い求めて世界レベルで開発競争が激しくなっている。球根出荷量が日本一の富山県としては、何としても世界に先駆けたいプロジェクトである。数々のブランド品種を誕生させた実績や、研究者の英知、情熱を結集してロマンあふれる夢を開花させたい。
英語の「ブルー・ローズ」は「不可能、あり得ない」という意味だが、サントリーは二
〇〇四年、独自のバイオ技術を駆使して十四年がかりで実現させた。これに伴い、青いバラの花言葉は「奇跡」「神の祝福」などと言われるようになった。神秘的な「青」への次なる関心はチューリップに向けられている。
青いバラの生みの親である金大理事で、サントリー生物有機科学研究所副理事長の田中
隆治氏は、金沢市で過日開かれた日本海イノベーション会議フォーラムで「バラを青くすることは一企業、一商品の話だが、新しい夢と産業を生み出した」と述べ、遺伝子組み換え技術などが社会に与える影響の大きさを強調した。青いチューリップも園芸分野のみならず、北陸のバイオ産業、観光産業などに波及効果をもたらす大きな可能性を秘めている。
農業バイオセンターの青いチューリップの研究は二〇〇四年度から本格的に始まり、花
びらの細胞に特定の遺伝子を作用させ、一つの細胞全体が濃い青色になるメカニズムが明らかになった。特許を申請し、今後は球根に遺伝子を組み込み、開花を目指す。
チューリップ産業にとって色彩への挑戦は市場の拡大、活性化に欠かせない取り組みで
ある。飲料、食品メーカーなどが植物の品種改良の基盤となるバイオ技術の成果を競い合っているが、富山の青いチューリップづくりは産地に夢を与え、地域浮上のかぎを握る点でもやりがいのある挑戦である。
◎懲戒職員不採用 組織一新にやむを得ぬ
政府、与党は懲戒処分歴のある社会保険庁職員を、新設の「日本年金機構」に採用しな
いことを決めた。最も軽い戒告処分の職員も含め一律不採用としたのは、社保庁がまさに心身ともに生まれ変わり、年金業務に対する国民の信頼を取り戻すためにやむを得ない措置である。
社保庁の年金部門を引き継ぐ新機構は二〇一〇年に発足する。その職員採用に当たり、
処分歴のある社保庁職員の扱いをどうするかで政府の判断は二転三転した。政府の有識者会議は、新機構の正規職員とはせず、有期雇用にするという報告書をまとめ、政府も当初はその方向であった。しかし、期限付きとはいえ全員を採用する案に与党から批判が続出したため、停職、減給処分を受けた者は不採用とし、戒告処分者に限って有期雇用を認める案に改めた。
有期雇用を一部認めようとしたのは、例えば、連帯責任で処分された優秀な職員まで採
用の道を閉ざすのは酷という思いからのようだが、それでも自民党から「採用基準が甘すぎる」という批判が絶えず、一律不採用に至った。「社保庁はわが党の参院選二連敗の原因をつくった」と恨みつらみをぶつける自民党の文書は、いささか大人げない印象も否めないが、社保庁に対する厳しい批判や「一点の曇りもない組織に」という新機構への注文は、国民の率直な思いを代弁したものといえる。
社保庁の体質改善を図る上で見逃せないのは、ずさんな年金業務の背景にある「労使の
なれ合い」である。給料をもらいながら無許可で労働組合活動をする「ヤミ専従」が常態化していたのは象徴的である。新機構が国民の信頼を得るには健全な労使関係を築くことが不可欠であり、そのためにヤミ専従にかかわった職員を不採用とするのも仕方がない。
新機構の職員は公務員でなくなるが、機構自体は「公法人」として厚労省の検査などを
受けることになる。しかし、身内の厚労省の検査には限界があるとして、有識者会議は第三者機関による監視を求めている。政府はこの提案を真剣に受けとめてもらいたい。