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【社説】

低炭素社会 『環境立国』への気概を

2008年7月26日

 二〇五〇年までに温室効果ガスの排出量を半減する。この地球的課題の克服と経済成長とを両立させるべきだと通商白書は訴える。掛け声だけに終わらせてはなるまい。実行こそが問われている。

 「環境力を最大限に活用し、世界の先例となる低炭素社会への転換を進める」。福田康夫首相は国会でこう宣言した。日本の環境技術は世界最高水準とされる。各国に広く行き渡らせれば世界のエネルギー消費量を現在の三分の一に減らすことができる。優れた技術は経済成長をむやみに制約することなく二酸化炭素(CO2)の削減を可能にする。

 〇八年版通商白書は首相の演説をなぞって日本の貿易や企業活動が目指すべき青写真を示した。

 日本の一人当たりの国内総生産は経済協力開発機構の加盟三十カ国中、十八位にまで落ち込んだ。世界が温暖化に向き合う今こそ、環境を商機に組み入れて日本経済を再浮上させる。ハイブリッド車はその先陣と言えるだろう。温暖化防止に加え、原油価格の急騰が消費者を低燃費のエコカーに走らせ、生産が追いつかない。米国では六カ月待ちが続いている。

 日本はその一方で太陽光による発電量世界一の座をドイツに明け渡してしまった。導入を促す補助金が〇五年に打ち切られ、普及率は伸び悩んだままだ。掛け声と現実との落差は大きい。国内メーカーの多くは、販売先の七−八割が欧州を中心とする海外だ。

 CO2を排出しない太陽光発電に着目し、一万キロワット級の発電所建設に挑む総合商社の取引先も海外市場。風力発電はその多くが米国へと向かっている。国内の「環境と成長の両立」は心もとない。

 政府は世界一奪還に向け、導入量を三〇年までに現在の四十倍に引き上げる目標を掲げた。CO2排出ゼロの比率を50%以上に引き上げる福田ビジョンの柱の一つだ。

 ここで見逃せないのは原油急騰による火力発電のコスト増だろう。高騰が続くようだと太陽光と火力のコストが接近し、環境と成長の両立が現実味を帯びてくる。

 ドイツは太陽光発電を設置すると、その見返りに電気を高値で買い取り、普及を後押ししている。「CO2を出さなければメリットがもたらされる」という低炭素化への果敢な政策誘導が不可欠だ。

 首相は日本が環境で国際社会を先導する−とまで言い切っている。ならば「環境立国」を宣言するくらいの気概を見せてほしい。

 

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