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北朝鮮の動きは鈍すぎる。
核開発計画の中身を明らかにするはずの申告書が先月、提出されはした。だが、核兵器には触れず、ウラン濃縮疑惑やシリアへの技術流出などの疑念にも答えていない。申告書の内容が本当かどうかを調べる検証も、実際の作業に入れないでいる。
この行き詰まりを打開できないかという期待を集めて、6者協議に参加する国の外相がシンガポールで初の非公式会合を開いた。だが「歴史的」という派手な前宣伝とは裏腹に、成果の乏しいものだった。
検証作業の進め方について、米国は事前に具体的な案を提示していたが、北朝鮮はまともに回答せず、検証の具体化はまた先送りになった。
その一方で、北朝鮮は見返りとして約束されているエネルギー支援や、米国によるテロ支援国家指定の解除などを求めるばかりだった。
きちんと検証できないまま、次の段階に進むわけにはいかない。ここは「行動対行動」の原則で、北朝鮮に検証の実施など約束を履行するよう引き続き厳しく求めていくべきだ。
米国のライス国務長官は、北朝鮮の対応次第で指定解除の先送りもありうると示唆している。今後のエネルギー支援なども同様の考え方で臨むべきだろう。
ブッシュ米大統領はテロ支援国家指定の解除を議会に通告したものの、実際に解除されるのは8月11日以降だ。それも大統領の判断次第で、先延ばしすることも可能だという。
北朝鮮の動きの鈍さは、核問題だけではない。日本政府に拉致問題の再調査を約束してもう1カ月半になるのに、いっこうに動く気配がない。38年前の日航機ハイジャック犯の引き渡しも音さたなしだ。
初の外相会合では、北朝鮮以外の外相からも拉致問題の進展を求める発言が出たという。再調査を早く実現させることも併せ、5カ国が協調して北朝鮮に働きかけていきたい。
とはいえ、拉致問題で進展がない限りエネルギー支援に参加しないという日本の方針に対し、6者協議の他の参加国の間には軟化を期待する声が高まってもいる。
その背景には、来年1月の任期切れを前に際立った外交成果をあげたいとのブッシュ政権の思惑がある。だが、ブッシュ大統領には北朝鮮の核問題で過去に大きな責任がある。数年前まで、出口への展望もないまま北朝鮮への強硬路線を続け、結果として核実験と核保有を招いてしまった。
米国が事態の打開のため積極的に動くのは歓迎だが、あまり急ぎすぎては北朝鮮に足元を見られる。米国はきちんとした検証の受け入れなど、北朝鮮側に行動を迫っていかねばならない。
政界と日米の軍需産業を結ぶパイプ役。こう呼ばれてきた「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀専務理事が脱税容疑で東京地検に逮捕された。
日本の防衛産業や商社が米国の軍需産業の情報を得るため、秋山理事にコンサルタント料を支払っていた。秋山理事は一部を隠して約7400万円を脱税した。これが容疑だ。
先行した防衛省汚職の捜査で、守屋武昌・前防衛事務次官と軍需専門商社山田洋行との癒着が明らかになった。巨額の装備品調達などに絡む防衛利権のうち、「官」と「業」との癒着が曲がりなりにも摘発されたわけだ。
残る疑惑が「政」のかかわりである。解明へのキーマンが秋山理事とみられている。東京地検は防衛利権の解明にさらに力を注いでもらいたい。
秋山理事は今年1月、参院に参考人として呼ばれ、山田洋行との関係だけでなく、政治家らをめぐる疑惑について追及された。
たとえば、山田洋行が米国メーカー2社の代理店権を他社に奪われないようにするため、自民党の防衛族議員らを介してメーカー側に働きかけをしようとした際に、秋山理事が山田洋行側から資金提供を受けたのではないか、というものだ。
政府が発注した旧日本軍の毒ガス弾の処理事業をめぐり、受注した鉄鋼メーカーの下請けに入った山田洋行が、秋山理事側に1億円を支払ったのではないか。そんな疑惑もある。
秋山理事はいずれも否定したが、浮かび上がってきたのは、防衛族議員や防衛省、外務省などに食い込み、幅広い人脈を誇る姿である。
秋山理事が仕切っていた会合には、防衛産業や商社のほか、外務省、防衛省、内閣府などの幹部、国会議員、外国大使館員らが参加していたという。
なぜ、一民間人にすぎない秋山理事がこれだけ大きな力を振るうことができたのか。
そのカギの一つが、秋山理事が事実上運営している「協会」だろう。そこには久間章生元防衛相や額賀福志郎財務相ら防衛族議員、山田洋行の元専務らが理事に名前を連ねていた。日米の交流事業を看板にする協会だが、政官界と軍需産業をつなぐ舞台だったのではないか。そんな疑問がぬぐえない。
もっとも、久間氏は「秋山君に金が入ろうが入るまいが、我々に入ったってことはあり得ない」と、不正への関与を否定している。
国家財政が危機にある中で、巨額の防衛調達をめぐる不祥事に対する国民の憤りは強い。
国会での疑惑の追及から半年余り。捜査は難航したが、秋山理事の逮捕にようやくこぎつけた。理事と政界とのかかわりはどんなものだったのか。捜査の行方を見守りたい。