タイマーが鳴ればゲームはおしまい。さいたま市立柏崎小4年の秋森大和君(10)の家では、ゲーム時間を1日30分と決めている。でも毎月23日はタイマーを使わない。さいたま市が07年から始めた「ノーテレビ・ノーゲームデー」だからだ。
5月23日。大和君は帰宅後、母愛子さん(39)とバドミントンをした。さらに、宿題をする姉の香澄さん(11)の隣で、母とオセロゲーム。「角とれるじゃん」。「いいところあるよ」。夕食後は父常男さん(40)も一緒に、トランプやダーツで遊び、午後9時に就寝した。
大和君は普段からそれほどゲームをしない。しかし、毎月23日は会話が増えたと、常男さんは実感している。
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ゲーム業界も変わりつつある。「お母さんに嫌われないゲーム機を作ろう」。600万台以上が売れた任天堂の「Wii」は、こんな発想から生まれた。
テニスゲームなら、棒状のコントローラーをラケットに見立てて振るだけ。子どもからお年寄りまで一緒に楽しめる。狙いは当たった。ゲーム情報誌を発行するエンターブレインと、市場調査会社ヤフー・バリュー・インサイトによる調査では、「誰と遊ぶか」は「家族」が78・2%と「1人」の65・5%を抑えた。
ソフトも多様化し、新興会社も登場する。98年設立の「レベルファイブ」(福岡市)は、謎を解きながら進む冒険ゲーム「レイトン教授」シリーズが170万本のヒットとなった。日野晃博社長(40)は「昔は『あんな業界』といわれたが、華やかで楽しいイメージを作りたい」と力を込める。社員約170人の会社で、09年度の新卒向け会社説明会には2000人の応募があった。日野社長が目指すのは「温かい世界名作劇場のようなソフト」だ。
拡大を続けるゲーム市場。「子どもはゲームに固執せず、実際にできる遊びをしてほしい」と話すゲームプロデューサーもいる。数々のヒット作を生み出した「ゲームリパブリック」社長の岡本吉起さん(47)。「バーチャルで遊ぶチャンスは与えたい。でも長くはやってもらいたくない」
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さいたま市のようなノーテレビ・ノーゲームデーの取り組みは、愛知県知立市、広島市、福岡県行橋市など各地に広がりつつある。
NPO法人「子どもとメディア」の山田真理子代表理事は「ゲームもテレビと同じで、なければ人と話す。ノーゲームで、子どもが話していることに気づいた人もいる」と指摘する。
多くの子どもがゲームで遊ぶようになった中、友達の話題についていけなくなることを案じた親がゲーム機を買うというケースも多い。日本小児科医会「子どもとメディア」対策委員長の武居正郎さんは指摘する。
「その家だけゲームがないと、子どもが浮いてしまう。学校や地域全体で取り組まないと変わらない」=おわり
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この連載は山本紀子、三木陽介、椋田佳代が担当しました。
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毎日新聞 2008年7月26日 東京朝刊